アクシデントは何処にでも

 “滝つぼの洞窟”の奥地にたどりつくと、そこには色とりどりの宝石があった。
 シアオは1番に駆け寄っていき

「すっごーい! 見てみて! 宝石がいっぱいだよ!!」

 と、小さな子供のようにはしゃぎだした。見て、と言っているが、皆とっくに見ている。
 シアオの様子を見てアルは

「頼むから静かにしてくれ……(疲れた……)」

 と呆れながら言った。
 アル的には先ほどのゴルダックの事やら何やらで精神的にも、肉体的にも疲れていた。そのためツッコミにもいまいちキレがない。なくてもいいが。
 スウィートは宝石に近づき、宝石に触れたりしている。
 フォルテはシアオのようにはしゃいではないが、宝石に目を奪われて、辺りをキョロキョロしている。ゴルダック達にぶつかったのも余所見をしていたからなのに、まだ懲りていないらしい。

「あ! おっきな宝石発見!」

 シアオの声に反応して、3匹はそっちを見る。
 すると、大きい赤い宝石が岩にはまっていた。大きさはポケモン1匹分くらい(大体アルくらい)だった。

「これ持って帰ったらいいんじゃないかな?」

「確かにいいわね。評価が上がるわね。じゃ、最初はシアオからね」

 シアオの言葉にフォルテが反応し、言葉を返す。
 シアオはフォルテに言われたとおり、宝石を抜こうとした、が

「ぬ、ぬけない……くぅっ……!」

 まったく動かなかった。ビクともしない。
 シアオはもう1回、とばかりに引っ張るが、抜ける気配は一向にない。
 痺れを切らしたフォルテはシアオの前にでた。そして同じように宝石を引っ張るが、やはり抜けない。

「くっ……! 腹立つわね……! アル、交代!」

「いや、無理だろ。フツーに考えて」

「物は試しって言うでしょ! スウィートは?」

 なんという無茶振りなフォルテ。
 スウィートも「無理じゃないかなぁ……」と思いつつも断ったらフォルテが怒りそうなので、試してみる。

「んっ……!!」

 前足を宝石に固定させ、一気に体の方に引っ張る。だが宝石は抜けなった。ひとつも動きやしないのだ。
 スウィートは首を横に振って無理、という合図を送る。

「僕、もう一回試してみるね!」

 シアオが宝石の前に立ち、再チャレンジしようとしている。
 スウィートは離れたところで見よう、と場所を移動した。
 フォルテはシアオに向かって「気合でぬくのよ!!」などといい、アルは「いい加減諦めろって……」とため息をついていた。

 そんな3匹をスウィートが後ろから苦笑して見ていると

(っ!?)

 あの、強い眩暈が襲ってきた、スウィートの視界はすぐに真っ暗になる。





 “滝つぼの洞窟”の奥地……滝の前で見たポケモンと同じだった。ポケモンは宝石を引っこ抜こうとしている。
 スウィートはポケモンの形を見て

(あの姿……どこかで見たことが……。何処だっけ……?)

 と思い出そうとする。出てきそうなのにでてこない。
 スウィートは考えながらも映像から目を離さない。
 しばらくすると何か閃いたように、ポケモンは宝石を引っ張るのをやめる。そして宝石を押した。

 すると少し小さいがゴゴゴ……という音が聞こえてきた。

 その音はどんどん近くなり、そして大きくなる。
 ポケモンはキョロキョロと辺りを見回し、その場から動こうとしない。

 ゴゴゴッ! と音がさらに大きくなる。ポケモンは横を見た。
 すると、大量の水が流れてきていた。ポケモンは慌てて逃げようとしたが、間に合わずに激流にのまれた。





「……!!」

(宝石を押したら激流が流れてきちゃうんだ! お、教えないと……!!)

 スウィートはシアオ達の方を見る。
 するとフォルテがなにやら助走をつけて尻尾を用意していた。まさか、と思いスウィートはアルに尋ねる。

「何を、しようとしてるの……?」  

「宝石を押してみるって事になったんだと。でも普通の力じゃビクともしないから、フォルテが尻尾でやるらしい。
 ……めんどい事にならなきゃいいが」

 アルは最後の言葉をポツリとこぼした。
 スウィートはまずい! と思いフォルテの方をむいて声をかけようとする。

「フォル――」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 スウィートが声をかける前に、フォルテは走って宝石に向かって攻撃した。
 それと同時にバリンッという音をたてて宝石が砕け散り、ポチッと本当に小さな音で鳴った。その小さな音に気付いたのはスウィートのみ。

 他の皆は宝石が砕け散ったことに論議しているが、スウィートにとって知ったこっちゃない。

「み、皆! 今すぐここから離れて! 危険なの! 説明はあとからするから――」

 スウィートが大声で指示をする。

 しかし、それは遅かった。

 ゴゴゴ……という音がしてきた。アルも不穏に気づき、逃げようとする。
 シアオも気づいて移動しようとするが、フォルテだけが動かない。

「フォ、フォルテ!! 危ないんだってば!! 早く――」

「わ、分かってるんだけど……し、尻尾が――

        はまっちゃって動けないのよ!!」

 フォルテの言葉を聞いた瞬間、3匹が一瞬固まった。
 が、スウィートは急いでフォルテに近づいて、はまっている尻尾を抜こうとする。だがなかなか抜けない。

 そんなことをしている間に、音はどんどん大きくなっていく。
 アルとシアオも急いで2匹の方に駆け寄り、引っこ抜こうとする。力づくで。

 すると、尻尾が抜け、スウィート達は少し後ろに下がる羽目になった。

「ぬ……ぬけたっ!!」

 とりあえず逃げなければ。
 急いで4匹ともが動こうとすると――

 激流はもうすぐそこまできていた。
 スウィート達は諦めず逃げようとしたが……時既に遅し。

『きゃぁぁぁぁぁぁ!!
 うわぁぁぁぁぁぁ!!』

 見事に4匹とも流されたのであった。





「た……助かった……」

 シアオが水でビチョビチョに濡れながら言う。
 激流にはもう流されていない。しかし――

「シアオ……下を見てみろ。助かってない」

 アルがそういうとシアオは、恐る恐る下を見てみる。
 下には、何もない。つまり、4匹は――空中にいるわけだ。

「え、えぇぇぇぇぇぇえ!!??」

 一気に下に急降下。
 スウィートはギュッと目をつぶる。シアオの叫び声がよく聞こえる。というかそれが大きくそれ以外聞こえなかった。

 数秒下に向かって落下していると――カサカサとしたものの上に落ちた。
 とてつもない衝撃がくると思っていたスウィートは呆然とする。 

「え……?」

 スウィートが恐る恐る目を開けると、見覚えのある顔と声に出会った。

「大丈夫? 上から落ちて来たみたいだけど……って、スウィートちゃん?」

 声をかけてきたのはフィーネだった。
 スウィートは驚いて目を見開く。フィーネの方も驚いているようだ。まぁ上から落ちてきたのだから仕方のないことだが。

「えっと……ここは?」

「ここは温泉よ。とても肩こりに効くの。その下の物は何か叫び声が聞こえたから、サイコキネシスで木の葉のクッション」

 スウィートの問いに、フィーネは微笑んで答えた。スウィートは下を見る。
 何枚もの木の葉が宙に浮いていた。つまりこのクッションが自分を受け止め、下に思いっきり落ちなくてすんだのだと理解する。
 感謝と同時に申し訳なさが浮かぶ。

「すみません……。ありがとうございます」

「いえいえ。怪我とかはないかしら?」

「私は特に……皆は大丈夫?」

 フィーネとの会話をはさんで、スウィートが聞くとアルは首を縦に振った。
 シアオとフォルテはというと

「僕は大丈夫だけど……フォルテが気絶してる」

 目線をスーッとシアオの隣にいるフォルテに向けると、フォルテはぐったりした感じで気絶していた。
 「あらあら」とフィーネがいいながら、フォルテが乗っているところの木の葉を地面にそっと置く。スウィートはまたお礼を言った。
 するとフィーネが

「ところで……3匹とも温泉入ったら?」

 と言った。スウィート達は木の葉から降りて温泉に入る。
 とても気持ちがいい温度だった。スウィートが体をリラックスさせていると

「にしても……上から降ってくるとはのぉ……」

 と後ろから声が聞こえた。
 聞きなれない声だったのでスウィートは近くにいたフィーネの後ろにすぐさま隠れる。声の主はコータスだった。

「わしはヘクトル・ウァイヤ。お主ら何故、上から来たのじゃ?」

「……俺はアルナイル・ムーリフといいます。実は――」

 アルはこれまでの経緯を話した。
 話し終わると、フィーネもヘクトルも驚いたような顔をした。
 「大変だったのね」とフィーネがスウィートの頭を撫でる。スウィートは

(……子供じゃないのに)

 などと思っていた。まぁ、十分子供なのだが。
 するとフォルテが目を覚ました。

「ん……?」

「あっ、フォルテ起きた? 温泉入ったら? 気持ちいいよ〜!」

「……は?」

 シアオが誘うがフォルテには何のことやら分からない。
 というか此処は何処だ。滝つぼの洞窟にいたのではないのか? という疑問しか浮かんでこない。自分が温泉にいる理由も分からない。
 先ほどから頭に疑問符を浮かべているフォルテを見て、スウィートが声をかける。

「私たち、激流に流されて此処まで飛ばされちゃったんだよ」

「はっ? 飛んだ?」

「うん。とりあえず温泉入ったら?」

 スウィートにそういわれてフォルテは温泉に入る。入った途端、少しフォルテの顔が緩んだ。
 するとフィーネの近くに、前フィーネが言っていた連れのブラッキーがよってくる。

「フィーネ、知り合い?」

「ええ。前話したでしょう? スウィートちゃん」

 ああ、と声をあげるとブラッキーはスウィートの方を向く。
 スウィートはフォルテの後ろにささっとすぐに隠れた。

「僕はシャオレア・レスファイ。シャオって呼んでくれればいいから。よろしく」

「は、はい……よろしくお願い、します」

 ぎこちなくスウィートが返事をする。「悪いなぁ……」とまたまた思うが、やはり直らないのだ。
 フォルテはスウィートの方をちらりと見てから、シャオとフィーネに向き直る。

「えっと……あたしはフォルテ・アウストラ。スウィートと同じ探検隊『シリウス』」

「私はフィネスト・イレクレス。フィーネと呼んで。スウィートちゃんとは最近知り合ったの。よろしくね」

「あの……フィーネさんとシャオさんは……恋人同士、ですよね……?」

 スウィートが恐る恐る聞く。
 するとフィーネはにっこりと微笑んで

「ええ。きちんとその目印もあるわよ?」

 と言い、腕を見せる。フィーネはシャオに目で合図すると、シャオも腕をみせた。
 見ると2匹ともリングをつけていた。フィーネは銀色、シャオは金色。よく見るとどちらも不思議な模様が彫られていた。
 シアオの遺跡の欠片とは違うが。

「これが目印。私はこのデザインが気に入っているんだけどね」

 そういって腕を引っ込めた。
 スウィートもフォルテも「見たことないなぁ」と思っていた。

 そして空気化していたアルとシアオが話しかけてくる。

「後少ししたら帰るぞ。報告しなきゃいけないからな」

「ん〜。僕としてはまだ入っていたいなぁ……」

「ディラさんが心配するから帰らなきゃいけないよ」

 スウィートが苦笑いしながらシアオに答える。
 そしてアルとシアオがフィーネとシャオに挨拶をし、数分話して帰るのであった。




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