初探検へ

「皆……今日は重要な知らせがある」

 いつものように朝礼が終わると思いきや、ディラが暗い口調で言った。
 ギルド内に緊張がはしる。少し間をおいてディラが口を開いた。

「“キザキの森”の時間がどうやら……止まってしまったらしい……」

「「「「「「止まった!?」」」」」」

 ディラの言葉にスウィートを除くギルドの全員が声をあげた。
 スウィートは訳が分からず首を傾げる。
 隣や後ろを見てみるとシアオやフォルテ、アルさえもが驚いていた。

「ああ。風は吹かず、雲はその場所から動かない。草についていた水滴は落ちることなく……その場で佇むのみ……」

 ギルド内が一気にざわめく。
 ただ1匹、記憶喪失で何も分からないスウィートだけがついていけていない。

「時が止まるなんて……」
「なんで止まったんだ……?」

 口々に弟子達が呟く。すると、ルチルが思いついたような顔をした。

「まさか……」

「そう、そのまさかだ。“キザキの森”にあった時の歯車≠ェ、何者かによって……盗まれたのだ」

「「「「「「何ぃぃぃぃぃぃい!!??」」」」」」」

 皆がまたもや大きな声をあげる。
 スウィートは聞きなれない単語に首を傾げるばかりだった。周りに全くついていけてない。

「ぬ、盗むやつがいるなんて……!!」
「驚きですわー!!」

「み、皆! 静かに! とにかくジバル保安官から怪しい者を見かけたらすぐに連絡するように言われているから!」

 ギルド全員が頷く。
 この時、スウィートだけが呑気に「ディラさん、大変だなぁ」などと思った。

「分かったな! それじゃあ仕事にかかるよ!」

「「「「「「お、おぉーーーーーー!!!」」」」」

 とりあえず朝礼が終わる。スウィートがシアオ達に先程のことを聞こうとすると。

「あっ、『シリウス』。ちょっと来てくれ♪」

 とディラに呼び止められた。昨日はラドンに呼び止められ、
 「今日はディラ……。ちょっと不思議な偶然だな〜」とシアオは思いつつ、ディラのほうに近寄る。

「最近お前達、依頼を頑張っているじゃないか♪ この前のお尋ね者のときも凄かったぞ♪」

 ディラはいきなりこれまでの功績を褒め始めた。
 スウィートとシアオは顔を明るくさせ、アルは相変わらずの無表情。フォルテはというと

(……どうでもいいから。早く依頼行きたいんだけど)

 などと考えていた。
 褒められたら気分がよくなるものではないだろうか。それともフォルテ的にはディラの褒め言葉は興味がないか。
 するとディラはそのまま笑顔で

「そんなお前達に、そろそろ探検隊たしい事をしてもらおうと思うんだ♪」

「「「「探検隊らしいこと??」」」」

 『シリウス』のメンバーが同時に首を傾げる。ここまで息があっているのはある意味凄い。
 ディラが「地図を出してくれ」と言ったので、スウィートが不思議な地図を取り出し広げた。
 全員が不思議な地図を覗き込んでみる。

「ここに滝があるだろう?」

「滝? それがどうかしました?」

 ディラが不思議な地図を羽で指す。
 トレジャータウンからは少々離れている所に、1つの滝があった。これが探検隊らしい事とどう繋がるのか、アルは疑問に思った。

「この滝には……ある秘密があるといわれているんだ。だからお前達にはその秘密を明かしてほしいんだ♪ 分かったか?」

「は、はい」

「了解」

「はいはい」

 ディラの説明にスウィート、アル、フォルテの順で頷く。
 スウィートは返事をしなかったシアオを変に思い、隣にいるシアオを見た。するとシアオの体は震え、目にも涙が溜まっていた。
 スウィートは思わずビックリする。アル以外は。

「シ、シアオ!? どうしたの!?」

 オロオロとしながらスウィートがシアオに話しかける。フォルテもディラも怪訝そうな顔をしているが、アルだけは呆れ顔。
 するとようやくシアオが言葉を発した。

「ごめん……。つい……嬉しくって。体の震えも、それ。初めて探検隊らしい事ができるから……」

「因みに体の震えは武者震い、な。いい加減覚えろ」

 嬉しさのあまり泣いているシアオにアルはいつも変わらない口調でシアオに言った。
 シアオはうっ、と声をあげたが。

「ま、まぁ頑張ってくれ」

「うん!!」

 シアオは涙を拭って笑顔で元気よく返事した。










――――滝――――

「うわぁ……すごい勢いだね」

 とシアオが滝を見ながら呟く。
 確かに滝の勢いは凄い。ドドドッ、と大きな音をたてながら水は流れている。
 シアオはそーっと近づき、滝に触れた。すると

「うわぁ!?」

 バチリッという音をたてて、シアオが吹っ飛ばされた。
 驚きながらもスウィートが急いでシアオに駆け寄り声をかける。

「だ、大丈夫!?」

「う、うん。なんとか。スウィートも触ってみたら? 凄い勢いだよ……」

 シアオは起き上がるとそう言った。スウィートは恐る恐る前足を滝に近づける。
 するとさっきと同じように

「きゃ……!?」

 バチッという音をたてて、スウィートはシアオほどは飛ばされなかったが少しだけ後ろに飛ばされた。
 スウィートはこれは凄いな、などと考えていると。

「うっ……!?」

 強いめ眩暈が襲ってきた。
 前にも、ウェーズの時の眩暈と同じだとスウィートにはすぐ分かった。
 すると視界が真っ暗になった。





 スウィート達がいる滝。そこには姿がよく見えないが、ポケモンらしき者がいた。
 そのポケモンは助走をつけて、滝目掛けて一気に走った。

(あ、危ないっ……!!)

 自分が飛ばされた滝に入っていくのに、スウィートは思わず目を瞑った。
 あれではもうペシャンコになってしまっただろう、と恐る恐る目を開けると

(えっ……?)

 そのポケモンは洞窟らしき所に転がった。
 どうやら滝の向こうには洞窟があるようだ。スウィートは絶句していた。





「……!!」

 映像が消え、元いた場所にスウィートは立っていた。
 見るとシアオ達がどうしようかと相談しているところだった。スウィートは「映像の事、どうしよう……」と言おうか迷っていると

「スウィートもなんか意見ある?」

 フォルテが話を振ってきた。スウィートは先程の映像の事を話すことにした。

「あの、ね。滝の中にポケモンが入っていって……その向こうには洞窟がある映像が見えたんだけど……前のお尋ね者と同じ映像みたいなんだけど……」

 スウィートがおずおず言うと、3匹ともに驚いた顔をされた。
 そして暫くの沈黙。その沈黙をアルが破った。

「やってみる価値はあるな……」

「はぁ!? 滝の中に突っ込むわけ!?」

 アルの発言にフォルテは驚いて大きな声をだす。
 アルの表情からは平常心を保っていることが分かる。アルはそのまま続けた。

「スウィートの映像は恐らくあってる。現に前のお尋ね者とときの映像が証拠だ。……俺は滝に突っ込むぞ」

 フォルテは驚きを隠せないようだ。まぁ炎タイプからしたらこんな勢いの強い水に突っ込むなど命取りにしかすぎないのだから。
 が、フォルテは少し考えるような仕草を見せてから

「……分かった」

 と小さな声で言った。
 後はー全員の視線がシアオに向けられる。シアオは不安そうな表情を見せたが

「僕は……僕はスウィートの事、信じるよ! だから滝に突っ込む!」

 と元気よく言った。
 スウィートは信頼してもらえていることを嬉しく思い「ありがとう」とお礼を言った。シアオはニコニコしながら「うん」と返事してくれた。

「助走……つけたほうがいいよな。じゃあ行くぞ……。せーのっ!!」

 アルの合図とともに、4匹は思いっきり滝に突っ込んだ。





「うわっ!」
「きゃあ!?」
「うおっ!?」
「ひゃあ!?」

 順番にシアオ、フォルテ、アル、そしてスウィートが声を上げる。
 スウィート達は映像と同じ洞窟に転がった。

「み、皆、大丈夫?」

 スウィートが確認する。アルを見ると既に立っていて、辺りを見渡していた。
 シアオとフォルテはというと

「ちょ、フォルテ上からどいて! 重い!」

「なっ……失礼ね!」

 シアオの上にフォルテが乗っていた。
 フォルテはシオアを一蹴りしてから退いた。シアオは体を抑えつつ「いたた……」といいながら起き上がった。
 そんな光景を見てスウィートは、苦笑する以外なかった

 すると先ほどまで辺りを見ていたアルが口を開く

「本当にあったな……洞窟。滝の裏にあるとはな」

「この洞窟、奥がまだあるみたい。行こう?」

 とスィートが進むとアルは普通に追いかける。
 フォルテは少々怒りながら追いかけ、シアオは慌てて追いかけるのだった。





――――滝つぼの洞窟――――

 スウィート達が入った洞窟の名は『滝つぼの洞窟』というダンジョンらしい。
 現に今、敵、コダックと戦っている最中である。

「っと……手助け!!」

 スウィートがコダックのひっかくを避けてから、技を発動させる。
 スウィートはすぐさま横に移動し、コダックから離れる。スウィートが元いた場所の後ろにはシアオがいて

「はっけい!!」

 コダックにはっけいをくらわすと、呆気なくコダックは倒れた。
 スウィートはふぅ、と息をついてアル達の方に目を向ける。
 丁度あちらも終わったようだったそしてまた進む。

 スウィートはふ、と今朝のことを思い出した。そして皆に尋ねる。

「あ、あのさ……今日ディラさんが「“キザキの森”の時間が止まった」って言ってたけど……。あれってどういう事なの? あと時の歯車≠チて……」

「そういえば……スウィートは知らないよな」

 スウィートが聞くとアルが反応する。アルは説明をし始めた。

「まず……時の歯車≠ヘ、時を動かしている要因なんだ」




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