秘められ力

「こ、ここです! ここで2匹がいなくなっちゃんたんです!」

 アイオに案内された場所は、名通り地面や岩が鋭くとがっている山、“トゲトゲ山”だった。
 此処もダンジョンで、ウェーズは此処でサフィアを連れて行ったらしい。
 スウィート達は移動しながらもアイオにウェーズがお尋ね者ということを伝えておいた。

「アイオ君。貴方は此処で待っていてね。危ないから」

 とスウィートがアイオに向かって言う。
 が、大切な妹が攫われたというのに待っていろ、と言われても、すんなりと従うことが出来ない。やはりアイオにも抵抗があり「で、でも…」と口ごもってしまう。
 そんなアイオにスウィートが困った顔をしていると

「お尋ね者退治に、一般のポケモンを巻き込む訳にはいかないんだ。分かるか?」

 とアルが言った。厳しい言葉だったが、口調は優しかった。
 アイオは少ししてから小さく頷いた。

「よし! じゃあ行こう! 急がなくちゃ!」

 シアオの言葉とともにスウィート達は“トゲトゲ山”へと入っていった。










――――トゲトゲ山――――

「つ……強いね……。ここまで苦戦するなんて――うわっと!」

 シアオが独り言を呟いていると、ドードーがつつくで背後から攻撃してきた。それを間一髪でシアオは避ける。
 そしてスウィートは隙をついて攻撃する。


「体当たり!!」

 ドードーは咄嗟に避けられず、まともに体当たりを喰らった。だが、やはりレベルが高いので一撃では倒れない。
 スウィートはすぐさま身を退く。そこから

「電気ショック!」

 アルがドードーに向かって電機ショックを浴びさせた。
 流石に効果抜群なのでドードーも倒れた。

「凄いね……アルとスウィート。コンビネーション、バッチリ!」

 シアオが率直な感想を2匹に言った。
 スウィートは褒められたのに少々照れていたが、アルは呆れ顔で少しため息混じりで

「シアオ……。お前はボーっと突っ立たないでくれ。危なっかしい」

 と言った。その発言のためにシアオの顔は少々ひきつったが。アルは溜息をついた。
 その頃、スウィートは全く別のことを考えていた。

(あの映像と声……。場所はどう見ても此処だった。それにサフィアちゃんが連れて行かれて、そんなに時間はたっていないはず……。
 だとしたら私が見たのは……未来?)

「スウィート! 何ボサッとしてんの! 早く先に進むわよ!」

 考えごとをしていたら突然フォルテの声が聞こえた。
 スウィートは驚いて体を少し揺らしてしまった。そして進もうとしている3匹を慌てて追いかける。
 少し歩いていると、アルがポツリと言葉を漏らした。

「無事だといいんだが……」

「そうね……。相手はお尋ね者だもの。何しでかすか分からないわね」

 フォルテも意見に賛同する。
 シアオはお尋ね者、という単語を聞いて一瞬顔をこわばらせた。その時アルとフォルテが丁度シアオを見たので、シアオは慌ててスウィートに話を振る。

「ス、スウィートはどう思う?」

「私は……許せない、かな」

 シアオ達は少し驚いてスウィートの表情を見てみると、少しだけ怒っているような表情をしていた。
 スウィートは気にせず言葉を続ける。

「あんな小さな子を平気で騙して……。きちんと反省させるまで、絶対に許さない」

 それだけ言うとスウィートは黙ってしまった。
 シアオ達もスウィートがそんな事を言うと思っていなかったようで、言葉を発しなかった。










――――トゲトゲ山 頂上――――


 頂上に行くと、そこにはサフィアとウェーズがいた。サフィアは

「ウェーズさん、落し物は何処?」

 とキョロキョロと周りを見渡す。ウェーズは少し間が開いてから喋った。

「落し物はここにはないよ」

「えっ……? ど、どういうこと……?」

 ウェーズの言葉にサフィアは戸惑う。
 ウェーズの顔を見ると、先程まで優しそうな顔をしていたのが嘘のように消え、邪悪な笑みを浮かべていた。
 サフィアは兄の近くに寄ろうとしたが、周りを見渡しても、兄は何処にもいないのに気がついた。

「お……お兄ちゃんは? 後から来るよね……? そうだよね?」

「お兄ちゃんんも来ない。実は、俺は……お前を騙していたんだ」

「えっ?」

 サフィアは恐怖を覚えた。そして一歩、小さくだが後ずさった。
 ウェーズはそのまま言葉を続ける。

「それより頼みがあるんだ。お前の後ろに……小さな穴があるだろう?」

 ウェーズが指をさした先にはとても小さな穴があった。
 その穴の大きさは何とかサフィアが入れそうなぐらいの穴。

「そこには……ある盗賊が宝を隠したといわれているんだ。
 だが、俺の体では穴に入れない。だからあそこに入れそうなお前を連れてきたんだ」

「ひっ……お、お兄ちゃん……!」

 ウェーズの迫力に、サフィアの目にだんだん涙が溜まってくる。

「大丈夫。言うことさえ聞いてくれれば帰してやるよ」

 恐怖でサフィアの目から涙がポロポロと零れ落ちた。
 ウェーズは気にせず、更に脅そうとサフィアに一歩近づく。

「お……お兄ちゃぁぁぁぁん!!」

 サフィアはついに恐怖からの逃げたさに、元きた道を引き返そうと走った。
 だが、それに気付いたウェーズは先回りをして、サフィアの逃げ道を塞ぐ。

「大人しく言うことを聞いてくれれば帰すといっているだろう!! 言うことを聞かなければ痛い目にあわせるぞ!!」

「だ、誰か……た……助けてーーー!!!」


「そこまでよ! お尋ね者ウェーズ! その子から離れなさい! じゃないと灰にするわよ!」


 サフィアが叫んだ後、スウィート達4匹がでてくる。
 先程の物騒な言葉はフォルテのものだ。

「探検隊だ! お前を確保する!!」

 アルが探検隊バッチを見せて怒鳴る。ウェーズはバッチを見て驚いた顔をした。

「な、なぜ探検隊が……!! どうしてここが分かった!?」

「そんな事どうでもいいから早く離れて!!」

 既にスウィートも少し怒っていて、ウェーズに思いっきり叫んだ。
 ウェーズはまずい、という顔をしたが、シアオの体が震えている事に気がついた。

「ん? お前……そうか! 探検隊といっても新平の探検隊か!
 ビビらせやがって! お前らごときに俺が捕まえられるかな!?」

 ウェーズは戦闘態勢をとった。スウィート達も身構える。
 そして震えているシアオに、スウィートが声をかける。しっかりとした声で。

「シアオ! 怖がってたって変わらないよ! 勇気をだして頑張って!!」

「……! う……うん!!」

 スウィートの言葉で気合を入れなおすシアオ。
 それを確認するとウェーズへと視線を動かし、スウィートは考えた。

(まずは……相手がどういう行動をとってくるか……。
 それに、サフィアちゃんを安全な所に連れて行かなきゃならない……)

「アル、シアオ。とりあえず攻撃を仕掛けて。
 相手の気が逸れている間に、フォルテはでんこうせっかでサフィアちゃんを安全な所に連れて行って」

 スウィートが作戦を言うと、3匹がまず動く。

「はどうだん!!」
「電気ショック!!」

 シアオとアルが同時に攻撃する。するとウェーズは簡単に攻撃を避けた。
 スウィートはそれを見てから動く。それを見かねてフォルテも動き、でんこうせっかで近づいた。

「たいあたり!!」
「でんこうせっか!!」

 すぐに攻撃が来るとは思わない、そう思い攻撃すると、ウェーズは簡単に避けた。
 フォルテはそのままサフィアを救出することが出来たが、フォルテの攻撃を避けようとしなかったウェーズに違和感を覚える。
 まるでフォルテが攻撃ではなく、サフィアを救出する事がわかっていたような。

 とりあえずフォルテはサフィアの様子を確認する。

「大丈夫? 怪我はないかしら?」

「は、はい……」

「そう。危ないからあそこの岩陰に隠れていなさい」

 ニコリとフォルテはサフィアに微笑んだ。
 サフィアは少し安心したようで、岩陰に隠れた。

 その頃、スウィートは急いでウェーズから距離をとり、態勢を立て直す。
 簡単に避けられた原因を考えようとすると、アルが気付いたように声をあげた。

「特性の予知夢か……!!」

「そうさ。お前らがいくら攻撃しようが俺に攻撃はあたらない! 残念だったな、催眠術!」

 とウェーズはニヤリと笑うと、催眠術をシアオにかけた。
 シアオは急で避けられずに催眠術をくらってしまった。

「あっ……シアオ!」

「カゴの実があったはず……!!」

「させるか! 金縛り!!」

 シアオを起そうとしてカゴの実をアルが取ろうとすると、ウェーズがアルの動きを封じた。
 それと同時にフォルテが戻ってきた。

「ちょ……シアオなんで寝てんのよ! アルも何突っ立ってんよ!?」

「フォ、フォルテ……。相手の技だよ!! 催眠術と金縛りを……。相手の特性は予知夢……」

 スウィートがフォルテにそう説明すると、フォルテが納得したような顔をした。

「じゃあ……どうすれば……」

「ボーっとしてていいのか!? ねんりき!!」

「きゃっ!?」

 スウィートとフォルテは咄嗟に動けず、まともにねんりきを喰らってしまう。
 ウェーズはシアオとアルにもねんりきをくらわした。

(まずい……。どうにかしないと! こんな……悪党に負けるわけには……!)

 スウィートがそう考えた時だった。

《……――しゅ。あやつを倒すだけの、力が必要か?》

「えっ?」

 頭に誰かの声が響いた。思わず驚いて辺りを見渡すが、誰もいない。
 ウェーズやフォルテは変に思いスウィートを見る。

《とりあえず答えろ。あやつを倒すだけの、力が必要なのか?》

 スウィートはどう答えるべきか迷った。
 だが、すぐに状況を理解すると、声に答えた。

(……うん。必要……。あのポケモンを倒すだけの、力が……!!)

《……承知した。ならば、力を貸そう》

 スウィートは体に違和感を覚えた。懐かしいような感覚が自分を覆う。
 頭の中に、いろんなものが入ってくる。

「フォルテ。2匹を連れて、安全な場所に行って」

 とスウィートが言うとフォルテは戸惑ったが、でんこうせっかでアルとシアオの元に行き、2匹とともに移動した
 ウェーズは「ククッ……」と怪しい笑い方をした。

「1匹だけで勝つつもりか? 3匹でも一発も俺に攻撃をあてられなかったのに――」

「ちょっと黙って。私いま、貴方に対して怒ってるの」

 スウィートは低い声で、呟いた。
 ウェーズは先程と様子が違うスウィートに驚き言葉を止める。

(一撃で……決める)

「……こんな事をした自分に、反省して」

 そう言うとスウィートは、一気に息を吸った。



「月下咆哮(ムーンロアー)!!」



 スウィートは高い声をだして声をあげた。
 するとそれと同時に紫色のはかりが波のように広がっていく。ウェーズは避けようとするが、全体攻撃で避ける場所がない。

「ぐっ……!? なんだ、これは……!?」

 波に当たると苦しそうにウェーズは顔を歪めた。アル達も当たったが何ともない。
 アルはようやく動けるようになり、少々痺れる体を動かす。フォルテはカゴの実を出してシアオに食べさせる。
 するとシアオはうっすら目を開いた。

「ん……? フォルテ……アル。はっ!? ウェーズは……」

「あそこだ。スウィートが戦ってる」

 アルに教えられ、シアオはスウィートの方を見る。
 シアオはスウィートの異変に気がつき、フォルテとアルに問う。

「ねぇ……。スウィートの目……真っ黒になってない? いつもなら茶色混じってるのに……」

 シアオにそう言われ、フォルテとアルも確認する。
 確かによく見ると目が真っ黒になっている。本人は気がついていないようだが。

「にしても……この技はなんなんだ? 見たことも、聞いたこともない」

 アルが怪訝そうな顔をする。
 スウィートは技を放つとき、「月下咆哮(ムーンロアー)」と言った。
 だがシアオもフォルテも、3匹の中で特に物知りなアルでも聞いたことのない技だった。色から見て、悪タイプの技だろう。
 だとすると、ウェーズにはかなりのダメージが与えられている

 するとスウィートが攻撃を止めた。同時に波も消える。
 ウェーズはかなりフラフラとしていた。スウィートは止めの技名を口にした。

「悪の波動!!」

「なっ……!! ぐあぁぁぁぁ!!」

 スウィートが放った一撃を避けられず、ウェーズは悲鳴をあげて、ドサリと地面に倒れた。もう立ち上がりそうにもなかった。

「やっ……た。勝った……」

 ウェーズが倒れたのを確認して、スウィートはホッと息をつく。すると

《……我が表に出ているのは、もう限界の様だ……》

 とスウィートの頭の中に、またあの声が響く。かなり辛そうでどんどん声が小さくなっていく。
 「まだ聞きたい事があるのに!」とスウィートは焦る。

「ま、待って……! 貴方は、誰なの……!? 何処にいるの……!?」

《悪いが、今は時間、がない……。1つは……答えておこう。我は、いや、我らはすぐ傍に……い、る……》

(すぐ、傍に……? どういう事……!?)

《時間の……だ。ま……会、おう……》

「ま、待って!! まだ聞きたいことが――」

 プツン、と突然に体の違和感が消えた。それと同時に懐かしい感覚も消えた。
 スウィートは急に力が抜けてしまい、地面に崩れ落ちた。

「スウィート! 大丈夫!?」

 フォルテが慌てて駆け寄ってくる。
 シアオはサフィアを連れてきて、アルはウェーズを見張っていた。スウィートは小さく「大丈夫。安心して力が抜けただけ」と答えた。
 スウィートの目を見ると、いつもと同じ、茶色が混じっている黒い目になっていた。するとアルが近づいてきて

「とりあえず戻ろう。こいつに目を覚まされたら面倒だ」

 と言った。こいつとはウェーズのことである。
 フォルテはスウィートの体を支えながら、アルとシアオはウェーズを引っ張り時々サフィアの様子を見ながら、山を降りた。










 山を降りると、何故かジバコイルとコイルが数匹いた。

「ハジメマシテ。私ハ保安官ノ、ジバル・オフカートト申シマス。
 オ尋ネ者、ウェーズノ確保アリガトウゴザイマス。報酬ノ方ハギルドニ届ケテオキマスノデ」

 とまぁ、なんか挨拶する間もなく、ジバルはウェーズを連れて行った。
 ウェーズは多少反省しているように見えたスウィートは満足した。

「あ、サフィア!!」

「お、お兄ちゃぁぁぁん! 怖かったよう……!!」

「ごめん、サフィア! 怖い目にあわせて……!!」

 感動の再会を黙ってみる4匹。すると暫くしてからアイオが4匹の方を向き

「『シリウス』の皆さん……本当に、ありがとうございました!!」

 と深々と頭を下げた。
 サフィアも頭を下げる。シアオは笑顔で

「いいよ、別に。僕らはやるべきことをしただけだし。2匹はもう帰った方がいいよ。お母さんが心配してるだろうから」

「はい……。本当にありがとうございました。それでは!!」

「『シリウス』の皆さん! ホントにありがとう!」

 2匹はそういうと歩いて帰っていった。
 スウィートはそれを見送るとドッと疲れが体にでてきた。そして、そのまま近くの岩にもたれかかった。

「さーて……帰るわよ――ってスウィート? どこか痛い……」

 何も反応せず岩にもたれかかっているスウィートを変に思い、フォルテは顔を覗き込みながら声をかけた。
 が、フォルテはスウィートを見て苦笑してしまった。アルは首を傾げながら

「どうした?」

 と尋ねた。フォルテは困ったような笑顔で

「疲れて寝ちゃったみたい」

 と答えた。スウィートは規則正しい寝息をたてて寝ていた。
 あれだけ頑張ったのだから無理もないか、と3匹は納得し、アルとシアオが交代でスウィートをおぶって帰る羽目になった。

 ギルドに帰って報酬をディラから貰うと、たったの300ポケだったとか。
 それでフォルテがめちゃくちゃ文句を言い、シアオが抗議してディラに説教されたのは、言うまでもない。




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