幸せな約束


*牧野とちゃんと脱出出来たend 本編以外の捏造入ってます


「あれ?」

はっとして名前は周りを見渡す。ここは美術館で人はそこそこにいるが、皆美術品を見
ていてキョロキョロ見渡す名前のことを誰も見ていなかった。

(なんでここにいるんだろう)

名前は少しだけ戸惑った。けど考えるうちに思い出してきた。家族で展覧会を見に来て、家族とは別行動で一人で回っていたんだったと。けど持っていたパンフレットは手には持っていなかったのが名前には不思議だった。ポケットに折り畳んで入れたのだろうか。そう思ってポケットに手を入れると紙とは違う何かが入っていることに気づいた。

(なんだろう?)

取り出してみると、可愛らしい赤の包み紙にくるまれた飴だった。しかし名前は飴を持ってきた覚えはなかった。

(誰かにもらった?けど誰に?)

―甘いもの食べると落ち着きますよ

そう言って微笑んで飴をくれたのは誰?

―大丈夫ですきっと…いえ絶対脱出出来ますよ

自分も怖がっていたのに励ましてくれたのは誰?

次々に浮かんでくる光景にずきずき頭が痛くなる。


(そうだ…私は美術館に閉じ込められて…あの人に会って一緒に…)

頭痛はますます酷くなるが、名前は思い出すことを止めなかった。彼と脱出を目指す中、彼と似た男と出会って追いかけられたこと、絵の中に飛び込んだことを思い出した。そして一緒に脱出した彼のことも思い出した。

(牧野さん…!)

辺りには彼はいない。きっと脱出しているはず。彼に、牧野にもう一度会いたかった。牧野を探すことにした。

首のない人形。色々な絵画があるところを探す。そして巨大な赤い薔薇の彫刻を見つけた。近くには男が一人いて彫刻を眺めていた。彼だ。

(あの人だ!)

名前の胸が高なる。一回深呼吸してから声をかける。

「あの…!」

振り返ったのは牧野だった。




「私に何かご用ですか?」

「…っ」

牧野は名前のことを覚えていなかった。あの出来事もきっと覚えていないだろう。さっきまでの高なりが嘘のように名前は落ち込んだ。

「…真剣にこの彫刻見てたので気になってしまって」

「私そんなに真剣に見てました?恥ずかしいな」

照れて笑った牧野は赤い薔薇に視線を向ける。

「この薔薇を見てると切ないような不思議な気分になるんです…っていきなりこんな話をされても困りますよね。すいません名前さん」

「えっ?」

「あれ…名前って誰でしょう…?」

口から出た名前に覚えがないらしく牧野は戸惑っている。

「…名前は私の名前です」

「あなたの名前なんですね…おかしいですね。 私は貴方と初めて会うはずなのに…私達
どこかで会いました?」

(会いました)

覚えていない牧野にあの場所の事を話したら変な目で見られるかもしれない。名前は怖くてなにも言えず黙ることしか出来なかった。

「すいません、また変なこと言いましたね。今のは気にしないでください」

名前が困っていることに気づいた牧野はそう言った。

「では、そろそろ行かないといけないので…」

牧野は出口の方へ歩き出そうとしたが、立ち止まった。

「あ…あれ…このハンカチ…」

牧野のコートのポケットからハンカチを取り出した。白い布に赤い糸で刺繍が施されたハンカチ。所々に血がこびりついているそのハンカチに名前は見覚えがあった。

(あのハンカチはあの時の…!)

あの美術 館の中で怪我をした牧野に名前があげたものだ。

「名前が刺繍されてる…名前…もしかしてこれ貴方の物ですか?なんで私が…しかもこれ…血…?」

牧野は俯いて黙り込む。名前は牧野の様子を見つめるしかなかった。

「…そうだ私、怪我をして…それでハンカチを…!」

暫くぶつぶつ呟いていた牧野が顔をあげた。そして名前に優しく微笑んだ。

「貴方に貸してもらったんですよね名前さん」

「牧野さん…!」

牧野が思い出した!その事実が分かった瞬間名前は牧野に抱き着いた。

「私たちあの世界から脱出出来たんですね…!」

牧野は名前の身体に腕を回して、頭を撫でた。

「ええ、戻って来たんですよ」

牧野にそう言われて名前はやっと実感が出てきた。ほっとし て涙腺が緩もうとするのを我慢する。

「あの出来事は現実だったんでしょうか…それに宮田さんは…いえ今は戻れたことだけを
喜びましょう」

小さく呟いた牧野の言葉は、自分の涙腺と格闘していた名前には聞こえていなかった。

「名前さんそろそろ落ち着きましたか?私そろそろ行かないといけなくて…」

「はい。ごめんなさい…」

牧野から離れる。これで牧野と別れるのが名前は少し寂しく思った。

「そしてありがとうございました…本当牧野さんにはお世話になりっぱなしで…」

「いえいえ私の方が助けてもらってばかりでした。このハンカチ洗って返しますね」

「洗わなくてもいいですよ…!」

「いえ綺麗に洗ってから返さないと私の気がすみません」

これが私の連絡先で すと胸ポケットから名刺を取り出して名前に渡した。

「次までには綺麗にしますから…だからまた会いましょう。約束です」

「…はい!」


end







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