「はい、ソフィ」

いつもの、大好きな笑顔と共に、唐突に渡された、
掌に収まる大きさの小さくて可愛らしい袋
自分の事を名指しした上で、かつこちらに差し出されており、
反射的に、自分にだ、と理解し受け取るも、
受け取ったものの真意がわからず、お馴染みの小首を傾げる仕草をアスベルに見せた

「アスベル、これは何?」

ソフィの髪と同じ藤色の小袋に、口を緩く閉じる小袋の色よりやや淡い色のリボン
傍から見ただけでは中に何が入っているか確認できない
開けて確認してみればいいものを、受け取った袋を外からまじまじと見続けるソフィに
アスベルは格好を崩して、今浮かべている笑みの中に、こっそりと微笑ましさを織り交ぜた

「バレンタインのお返しのクッキーだよ、今日はホワイトデーだから」
「バレンタインの、お返し? ホワイト、デー?」

前よりバレンタイン、の発音が滑らかになっている一方で
またしても聞きなれない単語、ホワイトデーの発音がたどたどしい
聞きなれない、という事は意味を汲み取れないのと同義だ
依然として小首を傾げ続けるソフィに、アスベルはいつものように丁寧な説明を贈る

「ホワイトデーっていうのは、バレンタインのお返しをする日なんだ」
「…お返し」
「そう、気持ちを込めて贈ってくれた贈り物に『ありがとう』という意味を込めて、贈り返すんだよ」

意味と、今日覚えた事を刻むように、ソフィはアスベルの説明の合間に相槌を打っていた
アスベルの説明で理解したのか、ソフィは受け取った物を見ながら嬉しそうな表情を浮かべる

「じゃあ、これにはアスベルの気持ちが込められてるの?」
「ああ、ソフィが俺にしたように、俺からもソフィに、気持ちを込めて作ったよ」
「ありがとう、アスベル、すごく嬉しい」

受け取った物を大事そうに両手で抱え、ソフィは花開く様な笑顔を浮かべた
出会った当初からは考えられない程、『人』らしくなっている
そしてその『人』たる証の、大切な存在に――ソフィに、浮かべて欲しい表情を今、
自分が引き出せている事が、アスベルにとっては密かに誇らしく、なによりも嬉しいもので

「喜んでくれて、良かったよ」

贈った物が喜ばれた事と、彼女の成長を感じて、胸に嬉しさが溢れた
しみじみと感慨にふけっていると、ソフィは袋のリボンを解いて
中のクッキーを一摘み取りだし、袋を持ったまま両手でパキリ、と二つにそのクッキーを割った
その内の片割れ一つ、アスベルに差し出された

「くれるのか?」
「うん、バレンタインデーの時と、同じ、一緒に食べよう?」

クッキーそのものは、一口サイズのもので、そこまで大きなものではない
それを二つに割れば、サイズが更に小さくなるのは言うまでもない、それでも

「わかった、一緒に食べようか」
「うん」

こうして二人で分かち合う事の暖かさを、知っているから

ソフィの手から二つで一つとなったクッキーを受け取って
二人で同時に自分の口の中へと放りこんで、サクッという小気味良い音を立てた
それは、程よい甘さを生み出して、二人で笑いあった

「美味しいよ、アスベル」
「それは良かった、ソフィと同じで、俺もこういうのは慣れなくてさ…ちょっといいかな」

アスベルはそう言って、ソフィの手の中にある子袋へ指を入れ、
一つのクッキーを摘みあげた、それをソフィの眼前に晒して、アスベルは苦笑いを浮かべる

「これなんか、凄い妙な形になっちゃったよ」

アスベルが今摘んでいるクッキー、綺麗な丸、とは到底言い難い仕上がりとなっていた
それを見てから、ソフィは中に入っているクッキー達が、
自分が作ったチョコ達と同じように形がやや不揃いな事に気付いた
でも、そんなの一切関係ない

「アスベル、そのクッキーは私だけで食べても良い?」
「え、いいけど…形がこんなに歪だし、他のある程度綺麗な形のを食べたほうが」
「いいの」

そっと、アスベル曰く形が一際、歪なクッキーをアスベルの手から取り、口にそのまま入れた
さっき食べたのと同じ、仄かな甘み

「だって、これにもアスベルの『思い』が込められてるから、美味しいよ」
「…そっか」

笑い話の一つにしようとしていたが、密かに気にしていたのだろう
どこか安堵したような雰囲気を漂わせながら、アスベルは笑った
ソフィはそれを見て、次に二人で分け合うクッキーを取るべく、小袋の中へと指を再び挿し入れた
アスベルと同じように、笑顔を浮かべながら




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