ある一組の男女が街中を歩いている、だが一方は歩かされてるというべきか
女性が先導するように男性の手をガッシリと掴んで、ただ只管に引きまわしている

男性――ヒューバートは緩めると言う事を知らないスピードに翻弄され、
女性――パスカルはお構いなしに明るい笑顔を振りまきつつ歩き、時に走りまわる
双方ともほんの少し息があがっていた、表情に陰鬱と明朗の違いこそあるが

こうなった経緯だが語るまでもないかもしれないが説明すると
パスカルにヒューバートが突如として連れだされたのである
とはいうもののヒューバートには一応街に個人的な用件はあった
大統領に出すための書状を書くための紙を切らしてしまい、それを買いに行こうとしたのだ
そう思い宿から出ようとしたその時、街に散歩に行こうと思っていたパスカルと出くわし、そのまま連行されたのだった

繋がれた手はその時のままである、この際ちゃんと付いて回るから離してくれと懇願するも
もうこのままでいいじゃん、とパスカルに一蹴されてしまった
良くありません、と即座に突っ込むも、何か面白い物を見つけたのか繋いだ手を遠慮なしにぐいぐい引っ張り
繋がれた手を介して上体を持っていかれ、次いで足もその方向へ持っていかれる
当初はそんな煩わしさに眉をひそめていたものの、
慣れというものは恐ろしい物でしばらくすると段々妥協していく自分に気付く
次は向こうへ突っ走るだろうか、と予測すると案の定そちらへ今度は向かい始めた
あまりの予想のしやすさに、ほんの少しだけ笑った、現在進行形で引っ張っていく張本人は気付きもしないが

でもこのまま男性である自分が女性にばかり引っ張られていくという状況も癪なので
スピードに乗ってきた足を踏ん張り、手をぐっと引いてブレーキをかける
当然ながらパスカルが振り向いた、目を丸くしたその様子がどこかおかしくまた笑いそうになるが今はそれを潜めておく

「少しは落ち着いてください、面白い物は別に逃げたりしませんよ」
「…うん、そうだね!」

今度は本当に歩くと言う表現が相応しいペースでパスカルが再び歩み始めるが
そのペースより少し足を速め、ヒューバートはパスカルを追い越してからペースを少し緩めた
それでもヒューバートの歩調はパスカルのそれよりもほんの少しだけ早いもので、
繋いだ手は今度はヒューバートが引くのだった、パスカルもまた明るい表情で付き従っていった


手と手を取り合って、相手を導く
相手を導いて、時には導かれて、引っ張り引っ張られ

置いていかないように、置いてかれないように、しっかりと繋ぎ合った手

引く手には、一緒に行こうよ
引かれる手には、一緒に行くよ

言葉に出ないけど、込め合った力が代わりに語る、繋いだ手と同じような堅い絆





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -