黒色と桜色、彼らを一目見て、それぞれ色を当てはめるとしたらこの二色だろう
そしてその色合いの相反さでなんとも街中でも一際目立つ二人組が揃って歩いていた

黒い長髪に良く合う黒を基調とした服を纏う青年の腕には、店で何か商品を購入したのであろう、紙袋が二つ
それは袋の中ほど付近までしっかりばっちりと膨らんでおり、
その袋にはぎっしりみっちりと、たくさんの購入品が入っているのが容易に見て取れる
一方、その青年の隣を歩く白を貴重とする明るいワンピースを纏った桜色の髪の少女の腕には、
青年が持っている様な手荷物は無く、手ぶらな状態である

傍から二人を見れば、その光景は女性に重い物を持たせまいと言う、男性の紳士的心遣いが現れている光景に映るだろう
事実、黒色の青年――ユーリはそのつもりで重い荷物を持っているのだ
確かに、腕にずっしりと来る重量を博しているが、大人の男性である彼にはそんな重量は屁でもない
なんだかんだで魔物との交戦時に剣や斧を扱う事で、腕力には自身があり
余裕綽々と言わんばかりに抱えている有様からも、それは伺える
そしてその余裕は表情にも表れている――かと思いきや
ユーリの表情は少々呆れというか、困った様子をたたえていた
そしてその微妙な面持ちにさせている原因は傍らの桜色の少女――エステルという愛称をもつ少女だった
依然としてエステルは、至極真面目な顔をしている
そして桜色の少女の持つ碧眼はユーリを真っ直ぐに進行形で見つめ、確固たる信念を奥に覗かせる
口まで真一文字に結んで、見るからに、聞く耳持たん、という彼女の様相、一体何があったのかというと

「ユーリにばかり重い物を持たせるなんて、不公平です!」

真面目一辺倒の実に彼女らしい発言に、
ユーリはどうしたものかね、と少しだけ空を仰ぐのだった






こうなった経緯は、早い話が買い出しである
別に買い出しそのものにはなんの支障もなかった
消費した薬類、食料品の補充、更に剣の手入れ道具などの個人的に用いる物も必要とあらば、
その時に合わせて購入するのが常の買い物様相だ
旅をしているならば、薬や食料品の補給を街でこまめにするのは至極当然常識の事実である
ご多分に漏れず、このパーティでもそれは適用されており、買い出しは原則当番制
そして今回はユーリとエステルの二人組が買い出しに赴いたのだ

そして問題は、無事に物資調達を終えて宿へと戻る最中に起こった
いや、厳密にいえば店を後にしようとした時、だ

店に無事到着し、購入したい商品を店主に注文し、合わせて勘定も前もって済ませ
あとは商品を受け取って帰るだけとなった
今回購入した物品の量は常よりも少し多めとなった事もあってか、
購入品は少し大きめの二つの紙袋に分けて納められていた
なるべく、店主は持ちやすいように配慮したのだろう
袋の中の購入品はどちらも、上手い具合に収められていた
長年の商売が磨き上げたスキルなのだろう、見事なまでの商品の詰め方をいかんなく発揮していた

ここまでは問題はなかった、ここからが始まりだったのだ

店のカウンターに置かれた二つの袋の内、片方の袋を持とうとエステルが腕を伸ばした時
隣に居たユーリが、袋二つとも片腕に一つずつ抱えるようにさっさと持ってしまったのだ
行き場を失った腕のやり場に少々困った事と、流れるようなユーリの動作に、
思わず困惑してしまった事で思わず呆然としてしまった
そんなエステルを尻目に「さっさといくぞー」と
いつもの軽い様子でさっさと店を後にしてしまうユーリをエステルはやや遅れて慌てて追った

彼の気持ちはわかっている、自分に負担をかけまいとした故の行動であることは、十分に
自分を思いやってくれる暖かい気遣い、でも、納得はできなかった
自分だって当番なのだから、荷物を持つ義務があるはずなのに、
彼一人だけに任せてしまうのは、嫌なのに

外へ出てから、先に店を後にしてしまったユーリの姿を探すと、もうすでに5メートルぐらいは先を歩いていた
しかし視線はこちらにちゃんと向けつつ、こちらが追いつけるようにやや遅いペースで歩いていた
さっさと宿へと歩き始めてしまっているユーリの背をやや慌てて駆け足で追い始めると
こちらがついてきてる事を確認したからか、歩くペースはそのままに視線は前へと向けてしまった
数秒経て、無事その背に追いついた所で、彼女は、抗議を開始するべく口火を切った

「待ってください、ユーリ!」
「お、姫さんの足でも、ちゃんと追いつけたみたいだな?」

不満の色を露わにして、そう述べると
見慣れた、口端だけ上げる不敵な笑みと共に、からかいを含んだ言葉でそう返され

「そこまで私、足遅くありません…って、違います!」

思わず、からかわれた部分に対して抗議してしまった
からかわれた事と、容易く彼に話の手綱を握らせてしまった事に、ほんの少し頬を膨らませた
そんな自分の反応すらも面白いらしく、
はっはっは、とわざとらしい声を上げて笑い始めた彼に、更に小さな不満を募らせて

「で、何が『違う』んだ?」

思わず本題を忘れそうになった
このままではいけません、と自分に内心で語りかけ、やや伏せていた顔をあげて彼を真っ直ぐに見やる
そして、冒頭の状態に至るというわけだ

「どうしてユーリだけで荷物を持っちゃうんですか!」

オブラートに包まず、真っ直ぐに不満の内容を彼にぶつける
だが至極真剣なエステルの様子に対して、今もなおユーリはいつもの不敵な笑みを絶やしていない

「なんだそんなことか…そこまで重くねーし、別にいいって」

彼の言葉は真実なのだろう、腕一つにつき荷物一つというノルマを彼はなんてこともなく、こなしている
全くもって危なげのない歩調がその証明になるだろう、
決してふらついたりせず、真っ直ぐ、しっかりと歩みを進めている
だが、エステルにとっての問題はそこではないのだ、
彼一人に負担をかけるのが、嫌なのである
ユーリ自身、この程度の事は負担などとは思っていないのだろうが、
それでも荷物運びを彼一人の手に任せてしまっている、この状況が気に入らなかったのだ

「よくありません!」
「…なにがだよ?」

ユーリ自身、エステルが何故なおも食い下がらないのかの理由はわかっている
だが、あえて彼は聞き返した
それは彼自身の悪戯好きな性格がもたらす、悪戯心をくすぐられたからに他ならない
真面目な性格の彼女はユーリにとってはからかうとなかなか楽しい部類なのだ
どうせなら宿に戻るまでの道中、楽しく行かせてもらおう、という魂胆である
ようやく自分の抗議の本来の内容という本題を持ちだしたことで、
彼から会話の手綱を奪い返したと思い込み、
実際は彼に良い様に遊ばれている事実に気付くことなく、エステルは抗議を開始する

「今回の当番はユーリと私の二人です、だから私にも荷物を運ぶ義務があります!」
「別にそこまで重くないし、一方が全部持っても問題ないって」
「なら分けて持っても問題ありません、平等にするべきです!」
「じゃあ袋が一つだったらどうしたんだよ、分けて持てないじゃねーか」
「その時はちゃんと二等分してもらうつもりでした!」
「袋の無駄遣いだろ、一つで済むもの二つに分けたらもったいないだろ」
「予備の袋をちゃんと持ってきてましたから、大丈夫です!」
「ふーん…準備いいな」

打てば響くというように、言葉を返せば寸を置かず返答をよこし、
更には、ほら、とばかりにユーリに持参してきた袋を見せつけるエステル
だが、目に入らぬか、とばかりに差し出された袋は、
ユーリが今手に持っている大きな紙袋に遮られて半分以上も見えない
だが、今はその紙袋はユーリにとってさりげない助けとなっている
面白さにニヤけそうな口元を見られずに済むからだ
多分、ここで「見えないんだけど」とでも言えば
彼女は自分の目の前に回り込んで、抱えた紙袋の隙間から見せつけるのだろう
そんな光景が容易に想像できたが、実行するのは差し控える事にする
そうなってしまっては、いけないからだ

なので、持参した袋の姿を拝めてないのには適当な返事をよこしてスルーを決め込み
先ほどから続けているように歩みを進めようとした途端
ついに業を煮やしたのか、ユーリの前にエステルが回り込んでしまった
ユーリの一番懸念していた彼女の行動が現実になってしまい、ユーリはやれやれ、と首を竦めた
歩みを止めざるを、得ないからである
彼女が真面目一色の熱弁を繰り広げている間に宿屋についてしまおうと思い、
先ほどから彼女のトークを手玉に取りつつも、歩みだけは決して止めまいとしていたからだ
彼女に目の前に回り込まれる事を懸念したのはそのためである

「往生際が悪いですよ、ユーリ」

そっちは諦めが悪いけどな、と内心で軽口を叩いてやりつつも
もうこうなってしまっては、このまま自分一人で荷物抱えて歩き出す事は許されなさそうである
目論見が外れたことで、はあ、とちょっと大袈裟に溜息をついて

「しゃーねえな、ちょっと待ってろ」
「どうかしたんです?」
「なんか中で荷物が動いちまったみたいだ、少し整理してくるわ」

整理が終わったら、ちゃんと片方渡すから、と後付けで述べると
自分の主張が受け入れられた事が嬉しいのか、表情を緩めて、はい、と清々しい返事をよこしてきた
そんなに嬉しいもんなのかね、と内心思うが、
その反面で、エステルらしいな、という感想を抱く
その場から少し離れた所に彼女に背を向ける形で一旦荷物を降ろして、袋の中の物をいじりだす
彼女にはついさっき、整理、と述べたが、実際にはそうではない
彼女に言われたからといって黙って従ってやる様な従順さは自分にはない

――さて、これで納得してくれんのかね

答えはおそらく否だろうが、多少ぐらいの譲歩ぐらいはしてくれるだろうと
アテにならない予測を立てる他自分にはない
自分の背で見えないようにカバーしながら
片方の袋の中から購入品をいくつか取りだし、気付かれぬように、
それらをもう片方の袋になるべく上手く突っ込む
元来大雑把な性格こそあって慣れない作業だが、出来る範囲で尽力した
その動作を数回繰り返し、適当なところで中止して、また両腕に抱えて
ある相違が生まれた、二つの袋を持って、戻る

「終わったんです?」
「ああ、んじゃ、こっちを頼むわ」
「はい!」

両腕に抱える形になってしまっているので、持たせたい方を手で取って差し出せないので
持って欲しい方の袋を腕ごとエステルに差し出す
差し出された腕に抱えられた袋をエステルが手に取る
だが持った瞬間、何かしら違和感を覚えたようで少し不思議そうな顔をされた

「なんか…随分軽いですね」
「分けて持つのが馬鹿らしいぐらいだろ?」

受け取った袋を思わずしげしげと少し持ち上げて見ている
幸い、購入した商品が袋に詰められる場面は見ていない
もし目の前で店主が袋に購入品を詰めていたのなら、
どのぐらいの量が入っているか知られてるので、一発でばれるのは目に見えているが
彼女の若干天然な性格も手伝って気付かれない方向で、ちょっとした賭けをしてみた、が

「…ユーリ」
「ん?」

訝しげな視線に晒された事で、結局その賭けは外れたのだと直感的に悟った
「ああ、やっぱり駄目か」と内心思ったが一応最後までシラを切ることする

「こっちの荷物、軽くしましたね?」
「んなことねぇって」
「じゃあそっちの荷物、ちょっと見せてください」
「…わーったよ、降参だ」

案の定あっけなく終焉を迎え、空いた方の手で参ったのポーズを取って肩を竦めた
事はそう上手く運ばないという、これまでの人生経験上の学習経験回数に今回の件を上乗せする
頑なに自分に負担をかけようとしないユーリをエステルは訝しむ

「どうしてそんなに拒むんです?」
「あのな…いくら俺でも女に荷物持たせるってのには抵抗があんだよ」
「私の事なら気にしなくても構いません」
「いや、傍から見ておかしいだろーが」

どこからどうなって常識チックなものになったかは知った事じゃないが
荷物持ちは男性の仕事、というような風潮がある
よっぽど大量に荷物があるならまだしも、今回程度の事なら男性が全部持つべきだと思う者は多いだろう
街中の他人の目を気にするような性分ではないが、それぐらいの良識ぐらいは一応ユーリも持ち合わせている
それに、なんだかんだで、彼女を気遣う心遣いも多分には含まれているのだ
その辺の旨を一通り伝えてみるも

「そういうものなんです?」
「そういうもんなの」

だが、生粋のお城育ちの姫君には、ぬかることなく欠落しているらしい
未だ腑に落ちないような表情をしているが、ここはさっさと歩きださせてもらう事にする
これ以上、何か言われる前に、宿に着かねば

「ほれ、いくぞ」
「あ、はい…」

ほとんど重さを感じない、とっても軽い紙袋をエステルは両腕で抱えて持つ
中身がどんなものであろうと、仲間内で共有するものなら、ぞんざいには扱えないという彼女の心内の表れだ
元々エステルの持つ紙袋に在中していた品々をもう一方にだいぶ移したため
更に重みが増したもう一つの紙袋をユーリはこれまでと変わらず片腕だけで抱え、また平然と歩き出す

ひとまず、今回はそういうものであるのだ、と無理矢理納得しておく事にして
エステルもユーリの後を追いだした
そして、しばらくして気付いた事がある

宿へと向かう道には、少し人混みが多かった
慣れない環境であるので、エステルにとっては当然歩きにくい状態にある筈だ、
にも関わらず、少し歩く幅は制限されるものの普通に歩く分にはまるで苦になっていない

――あ、ユーリのおかげなんですね…

前を歩く、青年の背を見ていて、気付いた
ユーリはエステルの前を歩く事で、自分の歩んだ軌跡をエステルに歩かせているのだ
エステルの歩きやすいように、人混みの中をかき分けて、一時的な轍を作る
歩調は店先を出た時と同じ、自分と付かず離れずの追いつけるペースで、
時折、少し振り返って、自分がついてきているかさりげなく確かめて
彼はいつも、こうやってさりげなく助けになってくれる
最もそれを指摘すれば、気の所為だろ、とでも言ってはぐらかされるのだろうけど

暖かな彼の気遣いは、やはり嬉しい

思わず、彼の背を見ながらクスっと笑ってしまった、心が、暖かい
自分一人で何もかも背負いがちなのは頂けないけれど

「何笑ってんだ?」
「いえ、なんでもありません」
「ふーん」

しかしタイミングが悪かったのか、丁度振り返った所だったらしく、怪訝な表情をされた
内心ちょっと焦ったが、それでも笑みは崩さず、そう述べた

――でも、いつかは頼られたいです

もうすぐ、宿へ着く
宿への道のりとは裏腹に自分の理想への道は、まだまだ遠いかもしれない

だいぶ疎らにはなったが、まだ人混みと称せる中でも相変わらず変わらない彼との距離
ちょっとだけ足を速めて、彼との距離を少しだけ詰めてみる、彼の背が少し近くなる
簡単なのに、難しい事

でも、難しいは、不可能とイコールではない

気付くとほとんど人混みとは言えなくなっており、もう宿が見えてきていた
更に少し足を速め、彼の隣に並んで見る

隣にならんだエステルを横目で見て、口端をあげて笑うユーリに
エステルも表情を緩め、笑みを浮かべた、


口元で浮かべた笑みの一部に、

自分の決意を、密かに乗せて















あとがき

実は当時書き途中でずっと放置していた代物

さて、そんなどうでもいい裏話は置いといて…
ユリエスです、はい、ヴェスペリアです

ユーリ←エステルの図式はありそうだと思いました
決戦前夜とか、少しその心情が伺える所がありますし
我がサイトでは、ユーリも少なからずエステルを想ってる感じ
身分差は二人でどうにかせい(何

この二人も大好きですPS3版をプレイした事無いので、
その辺ちょっとビクビクですが書いてみました
いかがでしたでしょうか?

お読みいただきありがとうございました!
(2011/1/11)
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