まだ太陽が高い位置にある昼間の事
広い町中をアスベルは買い物メモを片手に一人歩いていた
旅の最中なら色々と準備が必要である、ゆえに食材や、グミなどの補給は
出来るときにしないと冗談抜きで命取りとなる
買い出しは当番制で行っており、今回はアスベルが買い出しをする事になった
当番制、というが実際のところはパーティの母的存在である
シェリアが進んでやる事がほとんどなため
(本人曰く買い物でスタンプが溜まるのが面白いらしい)
こうしてアスベルにお鉢が回ってくるのは結構珍しい事だった
なんでも、手が離せなくなったそうだ、理由までは聞かなかったが
実際任せっきりもなんだよな、と思っていたので
アスベルはその役目を進んで受け入れた

――さて、買うものは、と

メモを確認してみる、ほとんどがグミや食材等で埋まっているので
道具屋にでも行けばだいたい終わりそうだ
もしかしたらそれだけで済んでしまうかもしれない
何の気なしに空を見ると所々にある白い雲を装飾とするように
どこまでも青空が広がっていた、良い天気だ
気候も暑すぎない丁度いいぐらいの温かさ、
日の当たる所でぼんやりしてると確実に眠気を誘うだろう
買い物が終わったら、たまには少し昼寝でもしてみようかな、とか
そんな事をぼんやりと思いながら、アスベルは道具屋に足を向けようとした

「アスベル」
「あれ、ソフィ?」

意識が別の方に向いていたからか、いつのまにか後にいたソフィに気付かなかった
動かそうとした足を止め、アスベルが体を後ろの方へ向けると
今しがた来たのかいつもの長いツインテールを揺らすソフィがいた

「どうしたんだ?」
「買い物、私も一緒に行きたい、いい?」

いつもの無垢な瞳でそう問いかけてくる
アスベルにとってはもちろんそれを断る筈もなく

「そっか、じゃあ一緒に行こうかソフィ」
「うん」

笑顔でそれを歓迎し、道具屋へ向かう、ソフィがアスベルの横に並ぶ
ソフィの歩調に合わせるようにアスベルは歩くペースを調節しながらゆっくり歩く
どうせなら何か話しながらのんびり行きたいな、とアスベルは思ったので

「ソフィは買い物が好きなのか?」

何か話題の種になればと、頭に浮かんだ適当な事を問いかけてみる
歩きながら少し考える素振りをした後彼女からの返答は普通、との事だ

「あれ、違うのか…じゃあなんで買い物に行きたかったんだ?」
「買い物に行きたかったわけじゃない」
「へ?」

なんと根底から否定された、ならばなんで来たのだろう、とアスベルは当然疑問を抱く
しかしこの会話の流れからしてソフィが話してくれるだろうと思ったので
口を挟まず彼女の言葉を待つ、案の定その予測は当たった

「私はアスベルと居たかっただけ」
「…! はは、そうか、嬉しいな」

続けて紡がれた嬉しい言葉に思わず目の前の少女に愛しさが込み上げ、
頭を撫でてしまう、アスベルの癖だ
純粋を体現したかのようなこの少女は偽ることもなく真っ直ぐに物を言う
…ゆえにそれが思わぬ波乱を呼ぶこともあるが
アスベルは好きだった、心身に沁みわたるような、そんな言葉が

歩きながらも、少女の頭を撫でながらそんな事を考えていたせいか
思いのほか近くに道具屋の看板、危うく行きすぎる所だった
危ない危ない、とややぼんやりしすぎた自分の頭を叱責し、
ソフィを伴い道具屋にメモを確認しながらアスベルは歩みを進めた

「いらっしゃい、何をお求めだい?」
店先に出てきたのは人の良さそうな中年のおばさんだった
初対面に関わらず、好感を覚えさせる不思議なオーラを醸し出しており
自然と肩の力が抜け、アスベルはメモを見ながら必要な物を注文していく
注文が終わるとおばさんは注文の品を取りに店の奥へ行ってしまった
その間ソフィは店の様子をじっと見つめていた
店の中には見慣れた道具などが点在しており、
なんの気なしに見渡していた、すると

――あれ…?

店のカウンターの横の方に木で編み上げたカゴが置いてあった
中には黄色かったり、緑色だったり、赤かったり、桃色だったりと
様々な色の小さな玉がそれぞれ透明な小さな袋に入っていた
綺麗、と思いながらも、これはなんだろう、という思いもあり
ソフィはその不思議な物から目が離せなくなった、視線が釘付けになる
その時、店の奥に行っていた申し訳なさそうにおばさんが戻ってきた

「ごめんよ、ちょっと品物を出すのに時間がかかりそうだけど、待っててもらえるかい?」
「あ、はい、構いません、お気になさらないでください」
「本当にごめんよ、おや、お譲ちゃん飴が欲しいのかい?」
「あめ…?」

ずっとカゴの中の物を穴が空くほど見つめていたソフィにおばさんが声をかけてきた
アスベルも言われてソフィの様子に気付きソフィの方を見やる
と同時にソフィが今まで見ていた物の名前が明かされる
あめ、あめ…としばし一人呟くソフィ
すると唐突にアスベルの方を見て飴を指差しながら一言








「この前、お空から降ってきたのと違うよ?」


思わず、ぶっとアスベルは吹き出してしまった
どうやら空から降る「雨」と「飴」を混同してしまったらしい
結構ありがちなのだが、こうも真剣な眼差しで問いかけてくださると思わず笑いたくもなる
笑っちゃいけない、笑っちゃいけない、と必死に念仏のごとく繰り返しながら
自分を叱咤するがすでに震えている肩は言う事を聞いてくれない

――せめて、声だけは…!

そんな思いから笑いそうになる口と腹を押さえながら
ソフィに背を向けるアスベル、肩は相変わらず震えてるため
全く隠し通せてない事に本人は幸か不幸か気付いていなかった
頭に疑問符を浮かべまくってるソフィに対し、おばさんは遠慮なく笑い飛ばし
説明どころではないアスベルに代わり、ソフィに説明をする

「これは食べ物なのさ」
「食べ物…なの?」
「ああ、といっても噛んだりはせずに舌の上で転がして、甘い味をしばらく楽しむお菓子さ」
「おかし…」

食べ物と知ってソフィは飴にとても興味を惹かれた
どんな味がするのだろう、と
そんな思考を読み取ったのか、おばさんは少しカウンターから身を乗り出し
カゴの中の飴を二つ摘みあげてソフィに差し出した

「試してみないかい?」
「いいの?」
「ああ、少し待たせてしまうし、それでも舐めながら待っていておくれ」
「…ありがとう」

そういってソフィはおばさんから飴を受け取った
それを確認しておばさんは再び店の奥へ姿を消した

「よかったな、ソフィ、舐めてみたらどうだ?」
「うん」

ややあって復活したのかアスベルがソフィを促す
言われるがまま袋を開け、中の飴を取りだし、手に取る
やっぱり綺麗、とそう思いながらソフィは飴を口に含み言われた通りに舌で転がす
コロコロ、と口の中でしばし飴を躍らせる
転がせば転がすほど、口にほのかな甘みが広がって

――甘くて、おいしい

自然と顔が綻んだ
と同時にアスベルにもあげたい、と思い
まだ開けていないもう一つの飴をアスベルに差し出した

「いいのか?」
「うん、アスベルと一緒に食べたい」
「そっか、ありがとな」

差し出された飴を受け取り、袋を開けてアスベルも飴を口に放り込む
甘い味がアスベルの口にも広がる

――美味しいな
――おいしいね

甘い味を共有しながら、顔を綻ばせながら、二人は笑いあった
それは、二つの甘い飴が作り出した優しい時間


程なくして、おばさんが奥から戻ってきて、注文した品物は揃い、品物を確認して
アスベルは代金を支払ったのだが計算より少し多めのお釣りを返された
せめてものお詫びだよ、とそう言いながら
しかもそれだけで無く逆に飴がたくさん入っている袋を渡され
さすがに気が引け、遠慮したのだが
いいから持って行きな、と人懐っこい笑みを浮かべながら半ば強引に持たされた

――色々と凄い人だったな

そんな感想を抱きつつアスベルはソフィと宿への道を歩いていく
道具屋だけで用が済んでしまったのだ
荷物はそれほど多くなく、アスベルはその荷物を、
ソフィは先ほどもらった飴の入った袋を両腕で抱え込むように持ち歩いていた

「アスベル」
「ん?」

突如呼びとめられ、アスベルは宿へ向かう足を止め、ソフィの方を見やる
ソフィの視線は腕の中の飴を見ていたが、ややあってアスベルの方を見て

「後で皆で飴、食べよう?」

突如、持ちだされた提案、いい考えだ、とアスベルは思った
皆で飴を食べる場面を想像して自然と顔が綻ぶ

「ああ、そうしよう、楽しみだな」

自然と荷物を左手に持ち、空いた方の右手でソフィの頭をまた撫でる
うん、と笑いながらソフィが腕の中の物をギュッと抱いた

パスカルはこういうのは好きそうだし、シェリアも好きそうだ
教官は自分と同じでアイスキャンディーが好きだし、甘い物は大丈夫だろう
ヒューバートはどうだろう、今甘いものが好きかはわからないが
仲間はずれになったりは意外に嫌うタイプだ
皆が食べれば好きか嫌いか以前に乗ってくるだろう、仕方ないですね、とか言いながら

「行こうか、ソフィ」

ソフィの頭から手を離し、一歩だけ宿へと足を進める
するとソフィは飴を右手だけで持ち、空いた左手でアスベルの右手を握る
その行動の意味するところを掴み、アスベルは右手にそっと力を込め
自分よりも小さな手を優しく握り返した

そのままどちらともなく宿との距離を縮めていく

再び宿に向かい始めた足は、とても軽かった

これからあるであろう楽しみに心を躍らせながら



太陽の光に照らされ
きらり、と一瞬でありながらも強く輝いたそれは


小さくて、甘くて、
皆を笑顔にさせる魔法の玉










あとがき

風邪で喉傷めたときに
飴を舐めながら思いついたネタです
個人的に飴は好き、でも前に何をとち狂ったか
漢方のど飴間違って舐めたときは激しく後悔
なんとも言えぬ渋みとエグさが、ぬおおお…!

この二人は共有する、というのが本当似合いますね
二人で同じことをするのがこうも自然にはまると思わなかった

グレイセスの世界に飴があるかはちとわかりませんでしたが
(確認作業は本当にいい加減)
バロニアでアイスキャンディー売られてますし
それならアイスじゃないほうぐらいあるだろう、と勝手に想像(笑

無くてもいいんです、二次創作だから!
この一言で全て解決、細かい事は気にしたら負けだ!

お読みいただきありがとうございました!
(2010/4/17)
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