『本物を当てないと出られない部屋』
その文字を見つけたわたしは頭を抱えた。
しまった、これは巷で流行りの◯◯しないと出られない部屋というやつじゃないか。
昨晩自分はしっかりと自宅の布団に入った筈である。
幾分か、体内に酒を取り込んではいたものの、それはしっかりと自分を保っていられる範囲の、正しい分量だった筈だ。自分に過失はない。ならば。如何して。わたしはこんなに冷たい廊下に転がっているのだろう。
考えても仕方がない、キスだとか性行為でなかっただけマシだと思いつつ、明らかに説明不足のその紙に首を捻った。
とりあえず灯の漏れている部屋へ入ってみようとドアを開けたわたしは愕然とした。
「にゃ〜」
なんとも甘い声で纏わりついてくる子猫。
それは微笑ましい光景である筈なのに、わたしの顔は引きつった。
「い、一体何匹いるの…」
そこにはざっと、軽く見積もっても50匹はいるであろう猫たちがひしめき合っていたのである。
「本物…って、これまさか偽物かなにかなの?」
そうひとりごちながら、ゆっくりと部屋の中央へ、猫を踏まないように歩を進めた。
部屋の中央にはテーブルがあり、そこには先程と似たような紙が置かれている。
『本物は一匹、チャンスは一度だけ』
再度、大して容量を得ない紙である。
正直ファンタジーは専門外だ、わたしはどちらかというとミステリーなんかを好んで読むのである。
とりあえず他になにか手掛かりは…と、周囲を見回すと、部屋の隅になにやら黒い物体が落ちているのが見えた。
見慣れたそれに心臓が飛び上がる。
そっと、そちらへ歩を進めていくと、その疑念は確信に変わった。
「これ…臨也の…」
そこにあったのは見慣れた黒いファーコートであった。
わたしの知り合いの中で、これを着ている男に確かに覚えがある。
よくよく見回してみると、部屋の所々に彼のものと思わしき黒いスキニーパンツ、黒いスニーカー、Vネックの黒いTシャツ、挙げ句の果てには黒いトランクスまでが発見された。
ああ、察するにこれは…
「この中に、猫になった臨也がいるって解釈でいいのかしらね…」
[mokuji]
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