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ブルウ・ワルツ(ロー)







「ぶはっ!なんだよナマエそれほんとセンスねえ!」

耐えきれないといった様子でシャチが噴き出す。その様に、むくれた顔のナマエは思い切り彼の足を踏みつける。

「痛え!八つ当りすんな!!」
「うるさい!ねえペンギン〜シャチがいじめるよ〜!代わってよ〜」
「悪いが俺の足は散々お前に踏まれて既に使い物にならん、」
「わー!すみませんほんとに!!あのね!!ペンギンはわざとじゃないからね!!」
「おい俺のフォローもしろよ!」
「うるさいシャチ!!」

そうだぞ〜うるせえぞシャチ〜!ナマエ!もっと言ってやれ〜と外野からの声がとぶ。

「お前ら、ちゃんと真面目にやってるんだろうな…」

温まり始めた空気を、途端に冷やす絶対零度の声がする。
振り返れば眉間の皺をいつもより深めたローがそこに立っていた。

「おいナマエ、お前自分から言い出したんだからちゃんとやらねえと承知しねえぞ…」
「あ、アイアイ…」


事の始まりはローの一言だった。

「潜入だ、」と告げた瞬間、ハートの海賊団一同はわあっと浮き足立った。

貴族のパーティーにおいて、秘密裏にオークションが行われており大量の宝が売買されるという情報が入ってきたのである。
よっしゃ乗り込むぞ、と気合いの入ったクルーたちの前に立ちはだかったのは、貴族の社交パーティという名目であった。こんなにも屈強な男共がまとめて潜入できるとはとても思えない。そこで、唯一の女性クルーであるナマエに白羽の矢が立ったのだが…

「ぶはっ!なんだよナマエそれほんとセンスねえ!」

と、冒頭に戻るのである。


「こんなのちょっと見ればできるけどなあ、」
「ほらナマエ、見てみろよ、」

休憩中も映像電伝虫にかじりつき、動画を見続けていたナマエがきっと声の方を睨んだ。
そこではシャチが女性役となり、他のクルーと華麗なダンスを繰り広げているではないか。

「〜っ!むかつく!!ちょっとシャチ!!教えてよね!!」
「そんなはしたない言葉遣いじゃ、社交パーティなんてナマエには厳しそうだな〜?もっと優雅にやらねえと!」
わはは、とクルー一同が下品な笑い声をあげる。

「ほう、シャチなかなかうめえもんだな…こりゃナマエが使い物にならない時にはお前が代わりにくるしかねえな…?」
「え?キャプテン、あの、「安心しろ、コルセットきつくしめてカツラでもすりゃ見れるようになんだろ、」

有無を言わせぬローの声に、シャチの顔色がさあっと青ざめる。

「おいナマエ!こっちこい!!はやく教えてやるよ!!」
「え!うん、ありがとう?」

その様子を見ながらくつくつとローが笑う。人が悪い、とペンギンも苦笑を落とした。





「おい、大丈夫なんだろうな?」
「うん、任せておいて、」

深い青のイブニングドレスに身を包んだナマエがピースサインをする。おしとやかにしてろ〜と周囲のクルーがはらはらした様子でその挙動を見つめている。

「安心しろ、俺が手綱を握ってるんだ、きっちり躾けておく、」

ローの言葉に不服そうな顔をするナマエ。そんな彼女をものともせず、タキシードを纏ったローはつかつかと歩き出してしまう。

「あ、待ってくださいよキャプテン!!」

走るな!というシャチの静止もむなしく、慣れないヒールでとことこと駆けていく彼女。その数歩前を歩いていたローは思い出したかのように立ち止まる。

「…?どうかしましたか、キャプテン、」

心無しか息を弾ませたナマエは小さくローを見上げた。くるりと振り返った彼はすっと彼女に手を差し伸べる。

「お手をどうぞ、レディ、」
「!?」

初めて聞く優しい声色に、ぶわ、とナマエの体温が上がる。

「ありがとうございますダーリン!?」
「馬鹿野郎、レディの対義語はダーリンじゃねえよ、」
「あ、はは、そうですよね、」

よくよく考えたら、練習のときはペンギンだったけどわたしこれからキャプテンと踊るのか!?この人と!?踊る!?と、やっと思い至ったナマエの頬に熱が集中する。
おずおずとローを見上げると、彼は高圧的にナマエを見下ろしている。
この人ぜったい楽しんでやってる!と途端に彼女は自分の身にふりかかった事の重大さに気づく。助けて〜とそっと後ろを振り向くと、生暖かい視線を向けたクルーたちが手を振っている。
半ば引きずられるようになりながら会場へと足を運ぶ2人。紳士と淑女とはほど遠い絵面である。




「レディ、飲み物はいかがですか?」
「えっと、あの、オレンジジュースをいただきます…」

会場に一歩足を踏み入れると、色とりどりのドレスやシャンデリアにくらくらとする。そんな場面をものともしないローは悠々と会場内を歩き回り、情報収集を始めている。
もらったオレンジジュースをちびちびと飲みながら、これはキャプテンと踊っている暇もなさそうだな、と安堵したところでそれは訪れた。

「お嬢さん、よければ一曲、」
「え?っと…」

そういえばダンスにばかり気を取られて、マナーのほうは頭からとんでしまった!とナマエは見ず知らずの男の前で慌てふためく。この場合はどうすればいいのだろう。踊った方がいい?それともやんわりと断った方が?でもその断り方は?

あわあわと空を彷徨った彼女の右手を、見慣れた入れ墨の入った手がさらった。

「悪いが箱入り娘なもんでな、」
「これは失敬、」

そのまま声をかけてきた男をいなし、ローはナマエの手を引いて会場中央へと歩き出す。ほうっと安堵たナマエではあったが、会場中央ではダンスが行われていることを思い出し、思わずローのタキシードの裾を引く。

「キャプテン!あの、「ローだ、」ローさん!どこへ!?」

一難さってまた一難、ローの姿を見つけて安心したのも束の間、明らかにダンスを強いられているこの状況にナマエは再度慌てふためく。

「オークションまではまだまだ時間があるらしい、仕方ねえだろ、」
「………もしかして、本当はこんなに早く潜入する必要なかったんじゃ、」
「どうだかな、」

絶対わざとだ…とわなわな震えだすナマエ。だが、周囲からの目と動きにくいドレスのせいでいつものように反論することもできない。

「悪くねえな、」
「何がですか、わたしのダンスの腕前ですか、」

諦めた様子で、されるがままとなった彼女はローの腕の中でくるくると踊り続ける。

「そっちじゃねえよ、まあよく頑張ったほうだな、及第点ってとこか、」

その言葉に、思わずナマエの頬が緩んでしまう。その瞬間をローは見逃さず、必要以上に彼女を引き寄せた。

「お前の苦手な土俵で、何から何まで手ほどきしてやるのは、悪くねえ」

耳元でささやかれたそれに、へにゃりと力が抜ける。ローの足を踏んでしまうのも時間の問題かもしれない、と彼女の頬を汗が伝う。

こんなことで、オークションまでに体がもつのだろうか。やっぱりシャチを犠牲にしてでも彼を女装させるべきだったんじゃないか、と思いながらもナマエはローの腕の中で踊らされるしかない。いつも結局こうなのだ、この男の隣では。






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