short | ナノ




夜が来ない人(臨也)





後ろ暗いことをぜんぶ捨てて、この女と生きてゆきたいと思ったことがないわけではない。

「臨也?どうかした?」

たとえば、夜がこなかったならどうだろうと考えた。
なんでもないよとニヒルに微笑む俺が内心、こんなファンタジックなことを考えていると知ったら、君は笑うだろう?

「臨也とも随分付き合いが長くなってきたよね、」

どこか畏まった様子の彼女に、そうだね、と告げる。ええと、なんだったっけか…そう、夜がもしも、来ないとしたら。
もしも夜がこなかったなら、自分も今ほどたかのはずれた存在ではなかったのではないかと思う。
だってよく言うじゃないか、夜は人を惑わせるって、
俺もその例外ではないらしく、やはり突拍子もないことを思いつくのは夜のことが多い。まあ、俺を知る人が聞けば、俺は朝も夜もおかしい、とかほざくんだろうけど。

「最近、ごはんとかひとりでどうしてるの?波江さんも毎日来れるわけじゃないんでしょ?」

ああそうだね波江…波江さん?ああ、ごはんの話ね、まあぼちぼちだよ。宅配頼んだりもしてるしね、……ええと、そうだ、たかのはずれた存在ではなかった、というからにはそう、俺自身も自分の異常性をわかっていないわけじゃない。
ただこればかりは俺の性なのだ。今更どうこう言われても撤回できるものではない。俺はこの先も火種を求め続けるし、そうした生活を続けるのなら、やはり彼女とは「臨也が倒れたりしたら嫌だし、一緒に住むのはどうかと思うの、」そう、やはり彼女とは一緒に住むべき………え?



「……え?」
「だから、そろそろ一緒に住むのとか、どうかなって…」

尻すぼみになっていく彼女の言葉。
もう、聞いてたの?とでも言いたげに尖った唇。


前言撤回だ、
夜がこなかったとしたら、彼女を朝だけしか愛してやることができないじゃないか。


そっと彼女を抱き寄せ、喉の奥でくつり、と笑う。
臨也のその笑い方すき、と彼女が呟いた。
ああ、もう、はやく、夜になればいい。と現金なことを思った。


後ろ暗いこと塗れの夜に堕ちる、君と、ふたり。


[ 9/57 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -