蒼く輝く水面
深い闇が世界を覆い静かな夜、水面に浮かぶコテージのテラスで潮風にあたり水面に映る月光を眺め1人、乙葉はひっそりと泣いていた。
一筋の涙を流した乙葉だったが、風がその涙を乾かした。
「乙葉……?」
波の音を静かに聞いていたところに、背後から声をかけられて乙葉は振り向き自身の方へと近づいてくる彼、明弘を見た。
「起こしちゃった?」
乙葉がそう明弘に笑いかけると、明弘は乙葉の頬に手を添えてそっと目元に残っていた涙の跡を撫でた。
「泣いていたのか」
「なんの事かしら」
すっとぼける乙葉に明弘は苦しそうな顔をした。
あの日、お互いの思いを、感情をぶつけ合って分かり合えたと思っていたのにこれだもんな、と。
乙葉はなんでも一人で溜め込んで我慢するから、と。
「なんて顔してるのよ。綺麗な顔が台無し」
ふわりと笑いながら明弘の手に自身の手を添えてそっと握り、逆の手で明弘の顔に触れた乙葉。
そんな乙葉に、明弘は顔を近づけて額をくっつけた。
「乙葉がまた一人で溜め込んで我慢してるからだろ」
「何も知らないのに私の事をわかった風に言うのね」
自嘲するかの如く笑い、明弘の手を握る力を少し強めた。
そんな乙葉の行為に、あぁまたかと、まだ強がるのかと明弘は思った。
最近になり明弘が気づいた乙葉の癖の中に、強がる時や我慢する時に何かを強く握りしめる行為があった。
基本的に自身の手を強く握りしめたり、服を握る事が多いのだが、稀に明弘の身体の一部を強く握りしめると言う事があるのだ。
まあ、その場合は今のようにして喧嘩とまではいかないが言い合いをする時に起こる事なのだが。
「あの頃よりは乙葉の事知ってると思うけどね」
頬を撫で、鼻先をすり合わせて乙葉をじっと見つめる明弘に、乙葉は当たり前だと返した。
それを聞いた明弘は確かにそうだと笑い、乙葉から少し離れて静かに波打つ海を眺めた。
時折強く波打つ水面には月明かりがキラキラと反射し、隣り合って海を眺めている2人を見守っているようだった。
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