短めの噺 | ナノ




飛行機雲(橘兄妹と玲)

「あっ! けんにぃみてみて! ひこーきぐも!」



橘家の縁側で日向ぼっこをしていた玲と賢士。
玲が脚をぷらぷらと揺らしながら、空を指差して空に弧を描く飛行機雲を見上げた。
賢士は玲のその声と指につられるような空を見上げ、飛行機雲を瞳に捉えた。



「ふーってすると消えるみたいだぞ」
「そーなの?」



疑うことを知らない玲は、面白半分に言った賢士の言葉を間に受けてふーっふーっと一生懸命に空に向かって息を吹きかけ続けた。
顔を赤くしながらふーふーと空に向かって息を吹きかけてる玲の可愛さに悶えている賢士の元に綾士がやって来て『なにやってんだ?』と声をかけた。

玲は一度やめて顔を元に戻すと綾士の方へ振り向いてにっこりと笑った。



「あのねあのね、ひこーきぐもふーふーしてるの」



にこにこと疑いのない満面の笑みで綾士を見る玲と、先程までの可愛さに悶えている賢士に綾士は呆れたように笑った。



「玲、んな事しても飛行機雲は消えねーぞ?」



賢士に騙されてんだぞ。
綾士がそう言うと、玲は明らか様にしょぼくれた顔をして頬を膨らませてむくれた。

くそ可愛い。なんて思い悶え苦しむ綾士と賢士。
賢士はふーふーと届くはずのない空に浮かぶ飛行機雲へと息を吹きかけている玲を初めから見ているからか立ち直るのが遅く、仕方なく綾士が拗ねる玲を慰めることにした。



「玲が大きくなったらもしかしたら出来るかもな」



純粋な玲の心を守るようにそう言う綾士はやけくそだった。
だけども、玲にはその言葉だけで満足だった。
ぱぁぁっと花が咲き誇るように満面の笑みを浮かべた玲はにこにこと綾士と賢士を見て『れーがんばる!』とガッツポーズを決めた。

そんなかわいい玲に悶え苦しまない訳のない綾士と賢士は、例に漏れずあまりの可愛さの玲に悶え苦しんだ。
そんな3人の元に麗華がやって来た。



「……おにぃたちなにしてるの?」
「玲の可愛さに死んでる」
「ふーん」



キョトンと不思議そうにしてる玲を尻目に、麗華は相変わらず過ぎる実の兄貴たちに呆れを切らしていた。
馬鹿じゃないの、と。

数年後、自身も玲の可愛さに悶え苦しむ日が来るのも知らずに。



ー END ー



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