短めの噺 | ナノ




お惚気噺(玲と賢士)

人の出入りが疎らになってくる夕方のこの時間、玲がいつものようにやって来ていつもの席に座った。
そしていつものように紅茶を淹れて渡してやると、玲はありがとうとお礼を言って一口飲んだ。


「今日はどうしたんだ?」
「あのね? たかくんがね、お仕事で遅くなるんだって」
「それでここで時間潰しか?」
「うん……だめぇ?」
「問題ねぇよ」


この時間はほとんど客は居ないしな。
居たとしても老人や時間潰しの社会人か、読書しに来てる大学生ぐらいだしな。
しかも、片手で数えられるぐらいの人数だし。
玲の事で騒ぐような若い女の子はあまりこの時間は来ないし、問題はないだろうな。


「ねえねえ、賢兄?」
「ん?」
「たかくんのお話してもいい?」


話したいと言いたげな顔で俺をキラキラとした目で見つめてくる玲。
聞く意味あんのか? これ。
ダメっつっても玲はきっと話し出すだろうな。


「気が済むまで話しな。聞いてやる」
「やったあ。あのねあのね、たかくんがね?」


そう嬉々とした表情で楽しそうに話し出した玲。
楽しそうに話す玲から恋人の人物像を想像してみると、玲にめちゃくちゃ甘い奴なんだろうなって。
ただ、仕事には厳しい奴なんだろうな。
公私混同をしない奴、か。


「それでね? たかくんがね、ロケしてる地方まで来てくれてね、すっごく嬉しかったんだぁ。でもね? 他の人がいたからぎゅーとかちゅーは出来なかったの」
「そうか」
「それでね、それでね?」


止まることを知らないのかとめどなく玲の口から"たかくん"との出来事が語られる。
大好きなんだろうな、玲が"たかくん"の事を。
確か玲の恋人って玲の出演するドラマや映画でよくっつーか必ずスポンサー契約してる会社の社長だったっけな。
確か名前は諏崎 孝宏、だったっけ?

まあ、その辺はどうでもいいか。
玲にとっての恋人は"たかくん"であって社長じゃねーもんな。
ほんと、溺愛されてんな……幸せそうでよかった。


「ねえ、賢兄?」
「ん?」
「あのね? たかくんに美味しいご飯作ってあげたいの。だからお料理教えて?」
「どんな料理がいい? でも、玲が作るとなると簡単なモンがいいか……」


玲は料理だけは下手だからな……手先が器用なクセに。
電子レンジ料理かオーブン料理の方が良いか?


「んーとね、チーズドリア作ってみたい! だあにも食べて欲しいなーって思って」
「ちょっと難しいけどいいのか?」
「頑張るっ」


グッと小さく両手でガッツポーズをした玲に俺は思わず口元が緩んだ。
なんでこう、玲はいちいちかわいい反応をするんだろうな。
あぁ、だから恋人は玲を溺愛してんのか。
玲がかわいいから。
なるほどな……納得だわ。

そんな話をしているうちに気付けば店仕舞いの時間で、客は玲だけになっていた。
バイトの子に店を任せる感じになっちまったな……


「玲、そろそろ店閉めるから旦那に連絡いれな。そろそろ仕事も終わる頃じゃないか?」
「あ、ほんとだ……分かった」


玲はそう言うとスマートフォンを操作してメールを打ち出した。
俺はそれを横目に見届けるとバイトの子に店内の掃除を頼んでレジ締めを始めた。
今日の売り上げはどれぐらいになったかな……。


「ねえねえ、賢兄?」
「んー?」
「たかくんがお店に来てもいいの?」
「別に問題ねーよ。客は玲だけだしな」
「そっか」


にこにこと笑う玲は、よほど嬉しいのか鼻歌まで歌う始末。
メディアで見る玲とは180度も違う人物だな。
ただ純粋に大好きな恋人を待つ子って感じだな。


「玲、料理は今度でいいか? 休みの時にみっちり教えてやるよ」
「ほんと? やったあ! ありがと賢兄」


んふふ、と心底幸せそうに笑う玲。
玲にも簡単に作れるようにレシピを考えるか……それでいて美味いモンを。
って、俺もつくづく玲には甘いな、なんて。


ー END ー



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