短めの噺 | ナノ




昼下がり(玲と賢士)

カランカランと来客を告げるベルが鳴り、ふと顔をあげるとつばの広い帽子を被って長い髪を緩く三つ編みにした一見すると女にも見えなくもない男が店に入ってきて、俺を見るなり笑顔を見せてひらひらと手を振ってきた。
今店に入ってきたのは、今や知らない人はあまり居ないであろう人気モデルの『玲』だ。


「いらっしゃい」
「来ちゃった」


玲はカウンターまで来ると慣れたようにいつもの端の席に座り両肘をついてその手の上に顎を乗せてにこにこと俺を見て来る。
玲は珈琲を淹れてる俺の姿を見るのが好きらしい。
まあ、玲は珈琲は飲まないから紅茶を淹れてやるんだけどな。

昼下がりのこの時間は客足はそこまで多くはない。
だが、居ないとは一概に言えない。
それでも玲は度々足を運んで店にやって来る。
まあ、可愛い可愛い弟のように可愛がってた子が会いに来てくれるのは嬉しいから来るなとは言えないな。


「ねえねえ、賢兄?」
「どうした?」
「賢兄は結婚しないの?」
「あぁ……まず、彼女居ねーし無理だな」
「えー?もったいなーい」


本当は淹れたての紅茶を飲んで欲しいが生憎、玲は猫舌だ。だから少し水をいれてぬるめにした紅茶を提供すると、玲はそう言って紅茶を飲んだ。


「……玲、髪けっこう伸びたな。腰ぐらいあるんじゃないか?」
「たぶん……ふふっ、お母さんに似てる?」


なんて言って口元に手を当てて含み笑う玲はガキの頃に見たおばさんにそっくりで、すげー綺麗だった。


「あぁ、そっくりだよ」
「んふふっ。僕ね、お母さんのこの長い髪が好きだったんだぁ……綺麗だったから」
「そうだな。でも玲も綺麗だぞ」
「ふふっ。ありがとう賢兄」


そう言ってふわりと笑う玲。
おばさんは玲が小学生の頃、しかも四年生ぐらいの頃に亡くなったんだったよな……確か。
まだ、会いたいんだろうな……きっと。
それを言わないのはきっと強がってる所為なのか、はたまた、会いたいと思う以上に今が玲にとって幸せなのか。


「玲、今幸せか?」
「うん」


心底幸せそうに笑う玲に、俺は微笑みかける。
そして願う。
この幸せが一生続くように、と。


ー END ー



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