かわいいイタズラ

朝、まだ眠気の残る感覚を振り払って漣は起き上がり服を探したが見当たらない事に気が付いた。
床に散らばった服はその全てが玲美のもので、漣の服は今履いているズボンしか残っていなかった。

「……玲美が着てんのか」

怠そうに髪をくしゃりと掻き毟った漣はベッドから出ると玲美を探しに寝室を出た。
そう長くない廊下を歩いてリビングに入れば、玲美は漣の予想通りに漣の服を着て部屋の中をウロウロと彷徨いていた。
男心を擽る可愛らしい恰好をした彼女をしばらく見ていたい気もしたが、漣は玲美へ近付くと自身の腕の中へと閉じ込めた。

「何で俺の服着てんの?」

漣が玲美の耳元でそう言えば、玲美は顔を上げて首を傾げつつも「手に取ったら漣くんの服だったから?」と口にし、そして「ダメだったかなぁ?」と続けた。

「別に良いけど、襲われても知らねーよ?」

可愛いからな、と続けた漣の言葉に玲美は恥ずかしそうに微笑み「漣くんにならいいよ」と呟いた。

「はいはい」

漣は玲美の言葉を受け流すと玲美の頭を撫で、離れるとキッチンへ向かい冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出してそれを飲んだ。

「本当にいいのに」

少し拗ねたように言う玲美に、漣は苦笑いを浮かべた。
愛する彼女の彼シャツ姿が魅力的じゃないわけが無い。
むしろ、今すぐにでも押し倒してしまいたいとすら思うがそれ以上に大切にしたい気持ちの方が大きい漣は玲美の身体の心配をしているからこその対応なのだ。
分かってくれとは言わないが、もう少し愛されてる自覚はして欲しいものだと漣は思った。

「また今度な」

冷蔵庫にもたれかかりながら玲美を見る漣。
そんな漣に近付いた玲美は漣を見上げてじっと見つめた。

「ん?」
「私じゃ魅力ないってこと?」

何か言いたいことがあるのかと思い漣が首を傾げれば、玲美から発せられた言葉はそれだった。

「十分魅力的だけど」
「じゃあ、なんでまた今度なの?」

納得いってないのか漣をじっと見つめて問う玲美。
漣はどうしたものかと思案したが、結局本当のことを言うことにした。

「玲美を大切にしてぇから」

だからあまり煽ってくれるな。
漣がそう言うと玲美はにっこりと笑った。

「ならいいよ。襲っても」
「……俺の話聞いてたか?」
「聞いてたよ」

さあどうぞとでも言うかのように腕を広げてにこにこと笑う玲美。
何も分かっちゃいねぇなこの女、と漣は頭を抱えたくなった。
キラキラと期待に満ちた眼差しで漣を見つめる玲美に、漣は持っていたペットボトルで玲美の頭を小突いた。

「なにするの」
「何じゃねぇよ。少しは自分の身体の心配しろって言ってんの」

そして我慢してる俺の身にもなれ、という言葉はなんとか飲み込んだ漣。
玲美はそんな漣の言葉に渋々了承してソファーの方へと歩いて行った。
ソファーの方へと歩いて行った玲美を愛おしそうに見つめる漣は、この先もこんな穏やかな幸せが続けばいいなと思った。

「玲美に振り回されるのは悪くない」

誰にも聞かれることの無いその呟きは漣の本心そのもの。
彼女が彼女らしく居られれば、漣はそれでいいのだ。
自由を愛する彼女を見守る騎士で居られればそれでいい。

「漣くん、一緒に映画観よー?」
「今行く」

ソファーの背越しに漣を呼ぶ玲美に返事をすると、漣は玲美の方へと向かった。

「で、玲美は着替える気ねぇの?」
「だめ?」
「別にいいけど……」
「ならいいじゃん」

はやくはやく、と急かす玲美に漣は「はいはい」と言いながらも機械を操作しディスクをセッティングして玲美の隣に腰を下ろせば、玲美はリモコンを操作して画面を映した。
始まった映画に見入る玲美を横目に見てたまにはいいか、と漣も映画に集中する事にした。

なんて事ない休日の朝。
こんな日があっても悪くはないと漣は思っていた。

− END −




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