また会えたなら
死んだということは分かった。
分かったが、ここは何処だ?
漣が目を開けた先に広がる光景に呆然と立ち尽くしていると、そこに近づいていく人影がひとつ。
漣の前方からゆっくりと、そして確実に近付いてくるその人影は漣のよく知る人物であり最愛の彼女だった。
「玲美……?」
「うん。漣くんもこっちに来たんだね」
にっこりと笑う玲美は当時の面影を残して成長していた。
もし、生きていたら今目の前にいる成長した玲美と並んでいられたのだろう。
身長も伸び、体つきもより女性らしく成長した玲美はより美しく、そして可愛らしくなっていた。
返事のかわりに玲美を抱き締めた漣は、ぎゅっと離さないように腕に力を込めて心の内を吐き出すようにボソッと呟いた。
「会いたかった」
全ての感情が込められたその一言は、多くを語らない漣の想い全てだ。
「っ、うん。私も……私も、会いたかった……会いたかったんだよ、漣くん」
嬉しそうで、それでいて泣き出しそうな顔で笑う玲美を愛おしそうに見つめる漣はそっと玲美に口付けをした。
玲美は恥ずかしそうに顔を赤らめ、漣に見られまいと顔を漣の胸元へと埋めた。
そんな玲美を心底愛おしそうに見つめる漣は、久方ぶりに感じる幸せを堪能していた。
玲美を失ってから全てがどうでも良かった。
玲美さえ居てくれればそれで良かった。
浪月の当主となっても喪失感だけは消えなかった。
あいつらと馬鹿やってる時もそうだ。
俺には玲美が必要だったのに。
独裁者となっても俺は孤独の王だった。
けれど今、腕の中に居る愛する人。
漣はその事実だけで満足していた。
今度は離さないと密かに誓って。
「漣くん、あっちに行こう」
玲美はそう言うと漣の手を握って歩き出した。
生前から玲美に振り回されることに慣れてる漣は、仕方がないと表情を緩めて玲美の隣に並んだ。
指を絡めて手を繋いで並んで歩く2人。
玲美はこの世界の事を漣に説明しながらもあそこの店はどうとかここは何だとか楽しそうに話し、漣はそれを相槌を打ちながら静かに聞いていた。
「それでね? 漣くん、一緒に暮らそう?」
「いいよ」
玲美の提案に即答した漣に、玲美はびっくりしたのか目を見開いたが直ぐに嬉しそうに笑った。
「嬉しい」
とびきりの笑顔を咲かす玲美に、漣は微笑んだ。
この笑顔が見たかったんだ、と。
何にも縛られない自由な彼女を愛しているのだと再度認識した。
「玲美」
「なに?」
「守ってやれなくてごめんな」
浮かれてはいなかったが守ってやれると過信していたのは事実だった。
あの時はまだ、それだけの実力がなかった。
それを理解していただけに、漣は後悔もしていたのだ。
玲美は立ち止まると漣をまっすぐ見据えた。
漣も同じように立ち止まると玲美を見た。
何を言われようとも受け止める覚悟をした漣はいつもの涼しい顔とは別に少し眉が下がっていた。
そんな漣を見た玲美は笑みを浮かべて漣の頬を抓った。
「漣くんがもう、あの人たちを懲らしめてくれたからいいよ。ありがとう」
漣の頬から手を離した玲美はそのまま漣に抱き着くと震える手をぎゅっと握りしめてぽつりぽつりとあの時の話を始めた。
「怖かった。嫌だった。漣くんにずっとずっと、会いたかった……死にたくなかった、んだよ……?」
「ん、ごめんな」
「漣くんとずっと一緒にいたかった」
「俺も玲美とずっと一緒に居たかったよ」
漣に縋り付き泣く玲美を、漣は抱きしめながらあやしていた。
彼女の小さく震える肩をそっと抱きしめ、もう大丈夫だと伝えるように。
「まだ、私のこと好き……?」
「愛してるよ。心の底から」
漣の言葉を聞いて玲美は安心したように微笑んだ。
「私も好き。漣くんが大好き」
涙を零しながら破顔した玲美に漣はキスをするとそのまま抱き上げて片手を玲美の膝裏に回して姫抱きにした。
玲美はびっくりしたように目を見開いたが嬉しそうに漣の首に腕を回して額同士をくっつけた。
「生まれ変わっても漣くんの彼女になりたいな」
「なりたいじゃなくてなるんだろ?」
「うん。だから私を見つけてね」
「世界中を探し回ってやるよ」
不可能なことなんてない。
欲しいものは死ぬ気で手にすればいい。
望んでいれば必ず手に入るのだから。
「漣くんはやっぱり格好良いね。さすが私のヒーロー」
「なら、玲美は俺の愛する姫様だな」
「じゃあ、このまま運んでくれる?」
「仰せの通りに」
幸せそうに笑いあった2人。
玲美の案内で漣はこれから暮らしていく場所へと向かっていった。
運命のイタズラで引き離された漣と玲美だったが、ようやく出会えた。
今はそれだけでいい。
生まれ変わるその時まで幸せで居られればいいのだ。
− END −
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