ワンライ企画 | ナノ





雪の日の朝


朝、起きると寒くてまだ隣で眠る泰弘にくっつく。
そういえば昨日、テレビの天気予報で夜から雪が降るなんて言ってたな……なんて思いながらオレは泰弘の寝顔を眺める。

好きだな、なんて改めて思う



「これ以上好きになるの怖い、な」



ポツリと呟いた言葉は泰弘の寝息に掻き消された。

いつまでも布団の中にいるわけにも行かないので、泰弘を起こさないように出てリビングに向かう。
カーテンを開けると、結露した窓の外に広がる白銀の世界に思わず声が漏れた。



「綺麗…」



真っ白い雪が降っていて、積もった雪が光に反射してキラキラしてて。
外に出て行きたくなる気持ちが湧き上がってきた。

寒いのは苦手だし、泰弘がまだ寝てるから本当に出たりはしないけど。


窓から離れたオレは暖房の電源を入れて、お湯を沸かす。
昨日の夜の行為の事もあって腰が怠くて動くのも大変だけど、それでも動く。

泰弘に甘やかされ続けるのは嫌だから。
自分に出来ることは自分でやりたい。
オレだって……泰弘を甘やかしてみたいから。



部屋が暖まってお湯が沸いた頃、泰弘が起きてきた。
髪のセットも何もされてない本当に寝起きの泰弘がキッチンに立つオレを見つけるとまっすぐ向かってくる。

それを横目にオレはマグカップに珈琲を淹れて泰弘に渡そうとすると、その前に抱きしめられた。



「おはよ、和葉」
「ん、おはよ」



寝起き特有の掠れた声に思わず赤くなる。
朝から刺激が強い……やめて欲しい



「かわいいな」
「うっさい」



泰弘の腕を振り払って珈琲を渡してそのまますぐに側から離れる。

泰弘の声は好き。でも嫌い
抱きしめられるのも好きだけど、嫌い
泰弘の事は好き。でも、嫌いなんだ。



「和葉」



ふわりと後ろから抱きしめられてビクリと肩が跳ねた。

怖い……怖い、怖い
抑えたくても抑えきれない身体の震えが泰弘に伝わる。
離さないようにきつく抱きしめられてさらに震えが止まらなくなる。



「やめ、て……」
「今度は何が怖ぇんだよ」
「これ以上好きになるの、が……怖い」



これ以上好きになったら何が離れていく気がして。
この関係が終わってしまうんじゃないかと思って。
このまま、泰弘が居なくなるんじゃないかと不安になって。

全てが怖くなった
一緒に居るのが怖くなった。



「大丈夫だ」



何が、なんて聞くのが怖くて聞き返せない。
大丈夫なんて言葉、信じられない



「もう、離して、よ」
「離したら逃げるだろ」
「逃げない」



逃げたらまたそこで何が終わる気がするから
"今"が変わるのが怖いから

泰弘には、分からない
オレも分からない
誰も分からない



「逃げない、から……1人に、して?」



振り返って泰弘を見つめて懇願すれば、泰弘は渋々リビングから出て行った。
扉が閉まる音が聞こえたと同時にその場に膝から崩れてオレは自分を抱きしめた。

1人になんてなりたくないのに、泰弘にこの姿を見られたくなくていつも強がる。



「やす、ひろ……ごめっ」



弱くて、自分勝手でごめん
いつもいつも、ごめんなさい

オレ、泰弘がすごい好きだ
なんて窓の外で降り止まない雪にそっと伝えた。



ー END ー



[2/2]





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -