白と黒の境界線 澪をあの胸糞悪い連中から買い取ってからしばらく経った。 買い取りと言ってもあいつらのやり方に従っただけであって、後からこちらのやり方で組織ごと潰したまでだ。 鬼灯の力も借りてな。 そんな訳もあって、今日は諒から奴らの今の状況を聞くためにとあるBARに行くわけだが……まだ不安定な澪を置いて行くのも気が引ける。 かと言って、連れて行くのも澪にあいつらに囚われていた時を思い出させることになるから嫌なんだよな。 「憐さま……ぁ、れん、さん」 「どうした?」 玄関で靴を履いてると、パタパタと可愛らしい足音を鳴らしてやって来た澪に俺は微笑みかけて首を傾げた。 「あの、どこか……出かけるの、ですか……?」 「ちょっとな。仕事だ」 「そう、ですか……」 よく見ていなきゃ分からない程の小さな変化。 声と顔がどこか寂しそうにしてる。 まあ、ここんところ何処にも出かけずにずっと一緒に居たからな……無理もないか。 「澪も一緒に行くか?」 「あっ、えっと……その……いえ、大丈夫です」 俺の言葉に一瞬喜んだように見えたが、すぐに否定して笑い『行ってらっしゃいませ』なんて言葉を続けた澪。 俺はそんな澪の頭をくしゃりと撫で、遅くなるかもしれないから寝ていていいと言うことを伝えて家を出た。 諒の指定してきたBARまでの道のりを歩きながら嘉音へ電話で澪の事を頼み、深く息を吐きながら空を見上げた。 満天の星空に映える綺麗な三日月。 やっぱ、俺には昼より夜の方が向いてんな。 **** 諒指定のBARは繁華街を過ぎた閑静な路地を抜けた場所にある隠れ家の様なBARだった。 カウンターのみで、従業員もマスターだけのこじんまりとしたBARで込み入った話をするにはうってつけの場所だ。 「よう」 「遅かったな」 「悪い」 扉を開けて中に入ると、諒はすでに来ていて一番奥の席に座っていた。 俺が諒の隣に座りマスターに同じ酒を頼むと、諒はA4サイズの封筒を渡して来た。 「口で伝えるより読んだ方が早い」 「……ややこしい事になってんのか?」 「そう言う事だ。とりあえず読め」 諒に急かされ、俺は封を開けて数枚の束の紙を取り出して内容を読んでいく。 同じ闇の中で生きてる謂わば同業者。 中でも気に食わねえ奴らだからな……まだ息の根があんのかよ。 完全には潰せてなかったってことか……鬼灯が知ったらやべー事になるな。 馬鹿なやつらも動き始める事になるだろう。 そうなるとこりゃ戦争が起こるぞ…… 「俺が把握してんのはそこまでだ」 「これだけありゃ充分だ」 「後はお前の方でなんとかしろよ」 「分かってる。ありがとな、諒」 この先はグレーゾーンにいる諒ではなく暗黒の中にいる俺の領分だ。 俺は読み終えた紙束を再び封筒に仕舞うとカウンターの上に置き、出された酒を煽る。 ここからは仕事ではなくプライベートな時間だ。 [2/3] |