思い出 フジくんに近くまで送ってもらって、僕は前に住んでいた家に来て鍵を開けて中に入った。 無いって分かってるけど少しでもお母さんの物がないか家の中を暇を見つけて来ては探してるんだ。 今日は物置部屋を調べてみよっかな……まだ探してないところあったはずだし。 僕は二階の物置部屋に向かうと入り口のところに持っていた鞄を置いて、いつものたかくんが三つ編みにしてくれてる髪を解いて頭の上の方で縛ってポニーテールにしたらくるくるとゴムの周りに髪を巻きつけて毛先をゴムで留めて簡単にお団子にした。 そして、部屋の奥の方のダンボールの中をガサゴソと調べる。 「んー……なにかないかなぁ……?」 ダンボールの中、赤ちゃんのオモチャがいっぱい…… 僕が遊んでたオモチャかな? 全然覚えてないけど、なんとなく懐かしい気がして胸のあたりがポカポカしてきた。 タオルで出来たお人形やゴム製のオモチャ、カラカラと心地いい音の鳴るオモチャの下の方にたくさんのオモチャに埋もれていた小さな木箱が出てきた。 なんだか見覚えがあるような気がしてその木箱を取り出すと、蓋に飾り掘りがしてあってひっくり返して底を見てみると小さな穴が空いてて、ネジみたいなのが見える。 ……なんだろ、これ? 蓋を開いてみると、オルゴールらしい部品が入っていた。 「……あ、これ覚えてる、かも」 どんな曲だったかまでは覚えてないけど、小さい時によくお母さんがネジを回して鳴らしてくれたのは薄っすらと覚えてる。 お母さんがよく、オルゴールの音色に合わせて歌ってくれたんだ。 ……お母さんとの思い出、ひとつ見つけた。 どんな曲だったのかもう一度聴きたいなって思ってダンボールの中を再び漁って見たけどネジを回す部品はどれだけ探しても見当たらなかった。 僕はこれ以上探すのを諦めて立ち上がると壊れたオルゴールを持ってカバンのところまでいってそっとカバンの中にしまい込むと、お団子にしていた髪を解いてまたいつもの三つ編みにして鞄を持つと家を出て賢兄のお店に向かう。 賢兄のお店に着くと、僕はいつものカウンター席の隅っこに座る。僕の定位置。 賢兄は僕が席に着くとお冷とおしぼりを目の前に置いた。 「なんか嬉しそうな顔してんな、玲」 「うん! あのね、これ見つけたの」 カバンの中にから壊れたオルゴールを取り出して机の上に置くと、賢兄は首を傾げてそれは何だと聞いてきた。 「あのね、これお母さんのオルゴールなの。壊れてて聴けないけど、小さい時にお母さんがよくネジを回してくれたのを覚えてるんだ」 「良かったな、思い出が見つかって。玲の宝物だな、そのオルゴール」 「うん!」 本当は聴けたらよかったけど、でもこれだけで十分。 お母さんと僕の宝物。 大切な思い出だから壊れてても嬉しい。 やっと見つけた大切な宝物。 ー END ー [2/2] |