暖かな木漏れ日
初夏の陽気に包まれ、青々と生い茂る柔らかな草の上に蒼空は寝転んで昼寝をしていた。爽やかな風が吹き抜け、さらりと蒼空の髪を掻き撫ぜる。
そんな光景を少し離れた所から見守る紅次郎の顔はとても穏やかで、日常とはかけ離れたこの空間をひっそりと楽しんでいた。


「さて、と」


太陽が高くなり、気温も上がってきたのでこれ以上外での昼寝は蒼空の体調が心配だと、紅次郎は腰を上げ蒼空の元へと足を向けた。


「蒼空くん、そろそろ部屋の中に入ろう」


蒼空の隣に座り髪を撫でながら声をかける紅次郎に、蒼空はうっすらと目を開けるとゆっくりと眠そうに身体を起こし、そのまま紅次郎の方へと身体を倒した。
紅次郎はそんな蒼空を支えていると抱き上げ、ゆったりとした足取りで部屋の中へと入った。
自身の腕の中でうとうとと微睡んでいる蒼空を落とさないように気をつけながら、紅次郎は屋敷の窓を閉じるとリモコンを操作して冷房を入れた。


「すぐ涼しくなるからちょっと我慢な」
「ん……」


蒼空を抱えたままソファに腰下ろしトントンと一定のリズムで寝かしつける紅次郎のそのリズムが心地よかったのか、蒼空は再び夢の中へと誘われた。


蒼空が目を覚まし、眠そうに目を擦りながら紅次郎を見上げると、紅次郎はうたた寝をしていた。
じっと見つめる蒼空だったが紅次郎は目覚める気配がなく、蒼空はそっと手を伸ばして紅次郎の顎髭に触れた。伸びた髭のなんとも言えない感覚が気に入ったのか、何度も何度も蒼空は触った。
そうしている内に紅次郎が目覚め、蒼空と目が合うと愛おしそうに微笑んだ。


「楽しいか?」
「ん……面白い」


口角を緩ませ顎髭に触れる蒼空に、紅次郎はそっと顎を引き手を取ると蒼空の細く白い指に口付けた。


「おひげ……」


悲しそうに呟き紅次郎を見つめる蒼空は、よほど気に入っていたらしい髭の感触を楽しむその行動を止めらたのがショックだったのだろう。心なしか拗ねているような顔をしていた。
紅次郎にとって焦ったくて擽ったい行為だが、蒼空にとっては楽しいものらしい。


「擽ったいからもう勘弁な」
「けちぃ」


機嫌をとるように撫でる紅次郎だったが、蒼空は風船のように頬を膨らませてしまった。
誰が見ても分かるほど拗ねている蒼空に紅次郎はどうしたものかと考え、そして思いついた。
別の何かに興味を向ければ良いのだと。


「じゃあ、蒼空くんからキスしてくれたらもう一回してもいいよ」
「ちゅう?」
「そうだよ」


首を傾げ見つめてくる蒼空がどう動くのか紅次郎が見守っていると、蒼空の顔が紅次郎に近づいていくが唇が触れ合うことはなかった。


「ちゅー、した……?」
「されてないよ」


不思議そうにしている蒼空に紅次郎は微笑みながらよしよしと蒼空を撫でていた。唇が触れ会わなかったのは紅次郎が触れ合う直前に顔を後ろに引いたからなのだが、蒼空にはそれが理解できていないらしい。
なんて可愛らしいのだろうか、なんて愛らしいのだろうかと紅次郎は未だに不思議がっている蒼空を見て思っていた。


− END −


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