気まぐれなお姫様とヤクザさん
天気がよく気持ちのいい昼下がりの午後、梅咲は思い立ったように財布とスマホだけを手に家を飛び出した。家を出たはいいが特に行く当てなどなく、ぶらぶらとその辺を散歩し始めた。


「暇だなぁ……あ、なんかやってる!」


それほど大きくない神社の前を通りかかった時、賑やかな声が境内から聞こえてきて、梅咲はパッと表情を明るくさせて石段をワクワクとした軽い足取りで登り始めた。
上まで登り切るとそこに広がるのは様々な屋台と、浴衣や甚平を見に纏った人たちワイワイと賑やかな声だった。
そう、神社の境内で小さな祭りが開かれていたのだ。

「……まつりだ」


キラキラと目を輝かせた梅咲は、心の行くまでその小さな祭りを満喫したのだ。
綿あめを頬張ったりヨーヨーすくいをしたり、射的をしたり。
ほんの小さな子供だった頃にしかこういう場所に連れてきてもらったことない梅咲にとってはどれも新鮮でたまらないのだろう。

夜も深くなり、出店の屋台が次々と店仕舞いを始めると祭りに来ていた人たちも散り散りとなり、先ほどまで賑やかだったのが嘘のように静かな普段どおりの神社へと様変わりしていった。
その様子をつまらなそうに見ていた梅咲は、トボトボと一段一段石段をそれはそれはゆっくりと降り、降り切る前に石段に座ってぼーっと夜空を見上げた。

もう少し、まだあともう少しだけあの祭りの余韻に浸っていたい。
と、そんな気持ちが梅咲の心の中を満たしていた。

そこに現れた一台の黒い車は、窓ガラスもスモークが貼られていてまさに黒一色だった。
その真っ黒な車が梅咲の目の前に停まると後ろの窓が開き、中にいた人物と梅咲の目が合った。


「乗れ」


低い声でそう一言放ったのは車の中にいる人物であり、梅咲の恋人である綜聖だ。
だが梅咲は綜聖のその言葉に「嫌だ」と反論し、更には1人で帰ると言い放つと立ち上がり歩き出した。
そんな梅咲を素直に許すはずのない綜聖は車から降り、長い脚で瞬く間に梅咲との差を詰めると梅咲を軽々と担ぎ上げ、踵を返し車へと戻ったのだ。


「1人で帰るって言った」
「俺が許すとでも思ってんのか」
「そーせーのばーか」


半ば無理矢理車に連れ込まれた梅咲は、走り出した車の中で綜聖に突っかかったのは言うまでもない。
馬鹿馬鹿と繰り返す梅咲に、綜聖は深く息を吐き出すと片手で梅咲の顎をガッと掴みそのうるさい口を自身の口で塞いだ。
はじめ苦しそうにもがいていた梅咲だったが、次第に縋るように綜聖の着るスーツを握りしめてきた。
綜聖はそんな梅咲の変化を感じ取ると顎から手を首の後ろへと移動させて更に深く、甘く口付けをした。


「ったく、手間取らせやがって……」
「ぅ……えっち」


大人しくなった梅咲を綜聖がくしゃくしゃと撫でると、梅咲は頬を赤らめて無自覚に綜聖を煽った。
当の本人は煽った自覚など到底なく、思いつく限りの悪態をついただけだったのだ。
この後どうなるか、それは綜聖次第なのであった。


− END −


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