守るべきモノ
雛乃が交通事故に遭った

それを帆南から電話で聞いた憐は、雛乃が運ばれた病院へと走った。実際には嘉音の運転する車で、だが。
1分でも1秒でも早く雛乃の元へと行きたいと焦る気持ちが憐の心を蝕んでいく。


「また俺は光を……」


失ってしまうのか。どれだけ力を身につけたって護れなきゃ意味がない。あの時の二の舞にならない様に力をつけた。なのにこれじゃ……なんて思考を巡らせている憐の周りには只ならぬ不穏な空気が漂っていた。


「きっとひなちゃんは無事ですよ。大丈夫です」


憐の纏う空気を断ち切る様に嘉音が発した言葉は、負のスパイラルに陥りかけていた憐を引き戻すのに十分だった。
病院に着くや否や車を飛び出し、一目散に雛乃が居る病院へと駆け出した。無事でいてくれとただ一心に思いながら。憐は帆南から事前に聞いていた病室にたどり着くとノックもせず勢いよく扉を開けた。


「れ、ん?」


中にいた全員の視線を受けながらも憐の視線の先には雛乃が居て、頭に包帯を巻いてはいるものの元気そうな雛乃に憐は安堵した。だが、それと同時に後悔もした。何故傍にいなかったのかと。


「ノックぐらいしなさい。常識でしょう?」
「あ? あぁ、悪かった」


カツカツとヒールを鳴らし憐の方へと歩いていく帆南の言葉に憐は素直に謝り、隣に並んで立ち止まった帆南に目を向けた。


「ご覧の通りひなは無事よ。念のため今夜は入院する事にはなるけど問題なければ明日には退院出来るわ」
「……なら、良かった」
「分かってると思うけど次男坊、あんたは悪くないわ。ゆずの事もそうだけど、自分を責めすぎなのよあんたは。もう少し余裕を持たなきゃいつか身を滅ぼすわよ」


帆南はそう言い残すと憐の肩を2度軽く叩いて病室から出て行った。病室に残されたのは憐と雛乃、そして書類を書いている雛乃の父だけだ。憐は再び雛乃に目を向けると、周りなんて気にも留めずに雛乃の元へと一直線に歩みを進めた。


「えへへ……怪我しちゃった。でも、すぐ良くなるって先生が……っ!」


ヘラヘラと笑う雛乃をコツンと額をくっつけ黙らせた憐は、そっとベッドの端に腰を下ろし優しい手つきで雛乃の頭を撫でた。


「ごめんな、守れなくて」


傍にいて守れなくてごめんなと、憐は謝罪の言葉を並べ自身を戒めた。そんな憐を雛乃は肩を押して引き離し、まっすぐ憐の目を見据えた。


「憐は悪くない」


そう言いながら雛乃は憐の両頬をむにっと摘んだ。
突然だったからか、予想していなかったからか憐は雛乃のその行為に目を見開かせた。そんな憐を間近で見た雛乃は、滅多に見られない驚いた顔の憐を独り占め出来て嬉しそうに笑った。


「変な顔」


可笑しそうにケラケラと笑う雛乃に、憐は眉を下げ気落ちしているのがバカバカしく思い、笑う雛乃を愛おしそうに見つめた。
そして強く思った。この笑顔をいつまでも見ていたいと。


− END −


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