神楽家の深夜食堂
それは日付けを超えた深夜に開かれる。

親の作る料理を何故か受け入れてくれない俺の体は、いつも深夜に空腹で起きる。それは今日も例外ではなくて、何か口にできるものはないかと部屋を出てリビングへと続く廊下を歩いて行くと扉の向こうの明かりが灯っていた。誰がいるのかと恐る恐る扉を開けると、美味しそうな匂いが鼻を掠めた。


「やっぱり起きてきたか」
「……何作ってるの?」


対面式のキッチンで料理を作っていたのは兄ちゃんで、俺がここに来るのを確信していたかのようにほくそ笑んでいた。
匂いにつられるようにカウンターの方へと近づけば、兄ちゃんは何かを煮詰めていた鍋の火を止めて器に盛り始めた。


「そうだな……腹を空かせた愛し子への貢ぎ物かな」
「なにそれ?」


兄ちゃんの言っている言葉の意味が分からなくて首を傾げていたら、兄ちゃんは料理を盛った器を箸と一緒に持ってきて机に置いた。


「腹減ってんだろ? 食いな」
「……ん」


料理の置かれた向かいに座った兄ちゃんに倣って椅子に座り、箸を持ってご飯を食べる。
トロッとした卵でとじられてるうどんだった。あんかけみたいにトロトロとうどんに卵とじが絡みついてきてすごく美味しい。
あっつあつのうどんを冷ましながら食べ、ふと目の前に座ってる兄ちゃんが気になって顔を上げて見ると兄ちゃんはものすごく優しい顔をしていた。


「美味いか?」
「ん、美味しい」


俺が素直にそう感想を述べれば、兄ちゃんは俺の頭をくしゃくしゃと髪を掻き乱すように撫でてきた。
嫌悪感のあるその行為も、何故だか今は不思議と何とも思わなかった。むしろ、嬉しいような暖かいような不思議な気持ちだった。


「食い終わったらちゃんと寝ろよ」
「ん」


俺が返事をすれば、兄ちゃんは満足そうに笑う。
いつもの兄ちゃんは嫌いだけど、今の兄ちゃんは好きかもしれない。

− END −


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