我儘姫のプレゼント
年末はどこもかしこも忙しい。

楠木も海堂もそれは例外ではなく、憐は各方面へ動き回り忙しくしていた。世の中が聖なる日だと浮かれるクリスマスイブも、クリスマスも朝から夜まで憐の予定はぎっちりだった。


「人使い荒すぎだろ、隠居したんじゃねぇのかよあのくそじじぃ……」


あと1時間弱で聖なる日へと日付をまたごうとしてる時刻にほんのひと時の安らぎの時間を持てた憐は、そう悪態を吐きながら紫煙を燻らせた。


「繁忙期ってのもありますけど、あれは仕方ない事じゃないですか?」


文句を言いつつも仕事は完璧にこなす憐について回る嘉音は、そんな主人を労わるようにブラックコーヒーをマグカップに注ぎ淹れ目の前の机に置き、それに添えるように憐の普段愛煙してる煙草と吸えないときに舐めてる飴を数個合わせて置いた。


「……何これ?」


憐は意味がわからないと言うようにそれらと嘉音を交互に見やった。


「ささやかながらのプレゼントですよ。もうすぐ終わりますけど今日、誕生日でしょう?」


嘉音のその言葉を聞いた憐は、今思い出したという態度であぁ、と納得し、そしてありがとうとお礼の言葉を述べた。


「もう一つあるんですけど、これは私からと言うよりも、ひなちゃんがワガママを突き通したから仕方なくって感じですかね……全く、予定調整するの大変だったんですから感謝してほしいぐらいです」


雛乃に言い寄られているところを思い出しているのか嫌そうな顔をする嘉音を見やり、憐はなんとも言えない表情で笑った。


「ひなが悪かったな、嘉音。助かる」
「朝は8時頃迎えに行くのでそれまでになんとかしてくださいね」
「それもひな次第だな」
「本来なら遅くとも7時には仕事に戻って欲しいぐらいなんですから全力でなんとかしてください」
「まあ頑張るよ」


絶対ですからねと言う嘉音に、憐は本当に有能すぎる付き人だなと常々思っていた。

父親が隠居すると同時に父親に付いていた幹部連中は一緒に隠居生活に洒落込み、指南役として指導はするが決して表舞台には出なくなった為に憐は憐で自身について来てくれる連中を探し出し仕事を割り振るという仕事に受け継いでからは追われていたが、それを陰で支えていたのが嘉音であり、憐の事を誰よりも理解し知っている人物でもあるので、どれだけ感謝してもしたりないと憐は常々思っているのだった。


「ホテルの一室を取ってあります。この部屋で待ってるはずなので行ってあげてください。ホテルまでは送ります」
「ん、頼んだ」


憐はマグカップの中身を飲み干すと嘉音に手渡されたカードキーと一枚の紙切れをジャケットの胸ポケットにしまい、プレゼントとしてもらった煙草と飴玉を掴むと立ち上がって動き出し、それを見ていた嘉音はどこかへとメッセージを飛ばし、憐の後を追った。
ワガママプリンセスが機嫌を損ねてなければいいけど、と小さな望みをかけて。


− END −


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