浅賀鈴禾Lost  [ 3/3 ]


いや、でも分からない。
咎じゃない他の誰かとその行為を、と思い浮かべると吐き気がした。
もしかして、これが彼女のいう所の自覚というものだろうか。
他の誰でもない咎だから出来たのだと、咎だったから側にいることを許してたのだと自覚しろ、と。


「……ねぇ美優(みゆう)
「なに?」


自覚出来たからなのか、今まで彼女の名を口にしてもそれが声として耳に届いていなかったが、ようやく声として届いた。
ようやく、名前をちゃんと言えた気がした。


「その人じゃないとダメって思うのはその人が"好き"だという証拠になる?」
「なると思うよ」
「そっか」


ならばきっとそうなのだろう。
俺はきっと咎が好きなんだ。愛してた。
だからきっと一人で生き残るのはダメだと口にしてしまったのだと思う。
無意味に出たあの言葉の意味をようやくここで理解した。


「邪魔で目障りな人間を殺すのは止められそうにないけどいいかな?」
「彼も同じように、なんなら楽しそうに一緒になって殺しそうだからいいんじゃない? だから言ったの、2人は似てるって」


彼女が、美優が立ち止まってはじめて行き止まりに着いた事を知った。
この先はなにが待っているんだろう。


「ここから先には私はいけない。だからすずくん……ううん、鈴禾。ここでお別れだよ」
「ん、ありがとう美優。多分、俺は……いや、僕は君を愛してたと思う」
「私も愛してたよ。じゃあバイバイ。もう迷子にならないでね」
「ならないよ。だから美優、幸せになってね」
「それを言うならすずくんも、ね」


すうっと体が透けて消えていなくなった美優を見届けると、今まで行き止まりになっていた場所が遙か遠くまで続く道になっていた。先を行けって事かな。
2人で歩いていたその道を今度は1人で歩き出す。




なにもない、仄かに足元だけ明るいただただ長い道のり。それでも気が重くなることはない。
美優と話す事が出来たし、少しだけ自分の中の感情と言うものが理解できたから。
しばらく歩いていると、誰かの背中が見えた。
それが咎だと理解するのにそんなに時間は掛からなかった。そして、あぁ、ようやく来たのかと察した。
先を歩いていく咎に声をかけようとした時、強く風が吹きつけてきて思わず顔を庇うように腕でガードすると、その手に違和感を感じて視線を移せば何故か簪が握られていた。
これをつけて会いに行けって事かな。
俺は立ち止まると簪を今はもう慣れた手つきで着けて、そして大きく一歩を踏み出した。


「咎、遅かったね」


俺が呼びかけると彼は、咎は振り返りそして俺をみて不敵に笑った。ようやく会えたね、咎。
君が来るまでの間に美優に会えたよ。
俺を殺してくれてありがとう。
今度は俺がお前を殺すから、だからまた隣に居てくれよ。
俺のただ1人の最愛の人よ。


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