浅賀鈴禾Lost  [ 2/3 ]


「あのね? これは言うつもりなかったんだけど言うね?」
「うん」


俯きながらギュッと俺の手を握り、何か覚悟を決めた彼女は顔を上げて真っ直ぐ俺を見据えた。
真剣なその顔はとても綺麗だと思った。


「私ね、すずくんの事が好き。大好きだったの」
「うん、俺も好きだよ」


なんで言えば、彼女は苦しそうな顔で笑った。
なんでそんな顔するんだろう……?


「すずくんの好きと私の好きは違うよ……だって、私はすずくんと結婚したいって言う好きだもん。すずくんは違うでしょ?」


そう言う彼女の言葉にゾワっと全身に鳥肌が立った。
全身で拒絶する俺をみて、彼女は変わらず笑顔を見せていた。


「……ごめん」
「ううん、いいの。知ってたから」


再び歩き出した彼女の手は俺からするりと離れていってしまった。
決して埋まることのない溝を作ってしまったかのように。


「だからね、あの日した約束もそういう意味だったの。すずくんと結婚して家族になって、2人でお屋敷とは別の場所で家を建てて暮らすの。それで子供も作って家族で幸せに暮らすのが私の夢だったの。それが私の望んでいた幸せなんだ」


数歩先を歩く彼女の顔は見れないけど、背中は何処か寂しそうで、だけど声だけは明るかった。
『一緒に幸せになろうね』と、幼い日に2人で約束した。
だけど蓋を開けてみれば中身がまるで違っていた。
それもそのはずだった。
だって、あの日あの時から俺の人生はめちゃくちゃになってしまったのだから同じな訳がある筈もなかった。


「虫唾の走る内容だね」


だからだろう、思わず口から溢れた言葉は残酷で冷たかった。
こんな事を言いたかった訳じゃないのに、溢れ出た言葉は止まらなかった。


「俺が、僕が望んだ幸せは2人だけの誰にも邪魔されない世界だったのに……どこですれ違っちゃったんだろうね……きっと   が居なくなってからかな……? 僕に、俺にもっと力があれば死なずに済んだのかな……あぁ、でも元から幸せの定義が違うんじゃ意味ないか」
「ごめんね」


だけど、と言葉を続けた彼女は振り返ってにっこりと笑った。
まるでさっきの俺の言葉を気にしていないかのように。
そう言われると覚悟していたかのように。


「今のすずくんには一緒に幸せになれる人が居るでしょ?」
「いや……咎もきっと幸せの意味が違う」
「そんな事ないよ。だって2人は似てるもの」


ずっと見てたから私には分かるよ、と。
そう言って笑う彼女はどこか嬉しそうだった。


「似てないよ」


似てるわけがない。
そう言っても彼女は似てるの一点張り。
どこからその自信がくるのか……見当もつかない。


「それに、別に好きじゃないのになんで幸せになれると思うわけ?」
「それはすずくんが自覚してないだけでしょ?」
「……は?」


なにを言っているんだろう、と思った。
呆然とする俺をみて彼女はふふっと笑うとさらに言葉を続けた。


「彼の愛情表現も相当狂ってると思うけど、すずくんも相当狂ってると私は思うよ?」
「……どこが?」
「まず、世界に自分と相手だけでいいって思うところかな。すずくんはそれが幸せだと言うけど、私は悲しいと思う。他に誰もいないなんてつまらないよ」


喧嘩したらどうするの? 殺すって言う答えはナシだよ。
そう言われて、悩んだ末に返す答えが見つからなかった。
相容れなくなれば、お互いに死んで人生をやり直せばいい。なんなら死後の世界で2人きりになればそれで良かった。
邪魔する奴も、目障りなやつも、全部全部居なくなれば幸せになれるんじゃないかと思った。そう思っていたから、だから……


「私はすずくんの思想には賛同出来なかったけど、すずくんを愛していたのは本当の気持ちだよ。だけど今のすずくんには同じ思想を持った彼がいる。その彼ももうすぐこちらにやって来る。ねえ、すずくん。今どんな気持ち?」
「どんなって……まだわからない」
「じゃあゆっくり考えよ? まだ彼が来るまで時間あるみたいだから」


何もない、足元だけ仄かに明るい道を今度は並んで黙って進む。
どんな気持ちって、彼女は俺にどんな答えを望んでいるのだろう。
俺が咎を『好き』だと言って欲しいのか……?
恋だの愛だの虫唾が走る程嫌いなのに。


「すずくんの愛情は狂ってるかもしれないけど、私はその狂った愛、好きだよ。それに、すずくんはもう彼を受け入れてるでしょう? それこそが答えだと私は思うな」
「……受け入れてるって?」
「私達が死んじゃってからすずくん、気の許せる人達しか近づけさせなかったでしょ? でも、あの學園でずっと一緒にいたのは彼だけだった。違う?」
「あれはそういう条件っていうか……」
「でもそばにいることを許してたでしょ? それに、身体を重ね合わせてもいるじゃん。それってすずくんの中で彼は"唯一"になってたんじゃないの?」


そういう事になるの? と思った。
別に特別な感情なんてなくたって身体を重ねることは出来る。
まあ、反吐が出るほどその行為が嫌いなのは事実だけど、でも全くできない程ではないと思う。


← prevBacknext 


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -