浅賀鈴禾Lost  [ 1/3 ]


何もない真っ暗な世界で「すずくん」なんて言う懐かしい声が聞こえた気がした。
その声に導かれるように振り向くと懐かしい香りが鼻を掠め、そしてほんのりと明るく辺りが灯るとそこには会いたくて会いたくて仕方のなかった彼女が立っていた。


「……え、なん、で?」
「神様がね、会いに行っても良いよって言ってくれたからかなぁ?」


なんて言って笑う彼女はあの頃のまま変わらなくて、とても懐かしくて心があたたかくなった。


「神なんて信じてんの?」
「じゃあ私のこの姿はどう説明するの? 私が死んじゃったのもっと小さい頃だよ?」


くるりとその場で回転した彼女は随分と大人びた姿で、確かに記憶にある彼女の姿とはまるで違っていた。
薄暗いこの場所でもはっきりとわかるぐらいに真っ白なワンピース姿の彼女はほんのりと明るく光っていて、これが現実の世界ではないと言うことがはっきりと分かった。
否、ここが死後の世界である事を理解してしまった。


「んー……魔法?」
「ふふっ、ファンタジーの世界じゃないんだから」


クスクスと可笑しそうに笑う彼女は「あー可笑しい」と呟くと手を俺の方へ差し出して一緒に行こうと言った。
その差し出された手を握ると、彼女は嬉しそうに笑って隣に並んだ。


「あのね? すずくんに言いたいことがあるんだけど聞いてくれる?」
「うん、いいよ」


ゆっくりと歩く彼女の歩幅に合わせてのんびりと歩いていると、ぽつりぽつりと彼女は話し始めた。


「まず1つ目ね」
「うん、なに?」


1つ目と言うぐらいだからきっとたくさんあるんだろうな。
けれど、きっとそれなりに時間の猶予はあるとみた。
本当に最期の時間なのだから心に刻み込むとしよう。


「人の命は尊いものなんだよ? だから簡単に人を殺しちゃダメ」
「もう殺せないけどね」
「そうだけど……そうじゃないでしょ?」
「えー……じゃあ、ごめん?」


俺が謝ると、彼女はにっこりと満足そうに笑ってよろしいと言った。
何様なんだ、と思ったけど楽しそうなので口には出さないで置こうと思う。
きっと見透かされてそうだけど、それはそれでいいと思う。


「それじゃあ2つ目ね」
「うん」
「最期まで一緒に連れて行ってくれてありがとう」


彼女は立ち止まりそう言うと、俺が髪留めとして使っていたリボンをするりと解き、自分の長い髪をサイドにまとめてそのリボンで結った。
すると、色褪せていたリボンは当時の色合いが戻って、彼女にとても似合っていた。


「約束は最期まで守れなかったけどね」
「それは仕方ないよ。だって、無謀だもん」
「そうかな?」


実現出来ると思ったけどな、俺たちが幸せで平和に暮らせる世界は。
クズで不幸をもらたす要らない人間は捨てて、従順な人は残しておいて……あぁ、でもーーーーーーが居ないならそれも全て意味ないか。


「すずくん」
「なに?」
「すずくんは幸せになって。幸せにならなきゃいけないんだよ」
「   が居ないのに?」
「すずくんの幸せに私は関係ないでしょ?」
「あるよ」


ーーーーーーが居ない世界は色褪せたモノクロの世界そのものだったから。
そう言うと、彼女は困ったような、それでいて悲しそうな顔をして笑った。


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