置いて行かないで、と泣く愛し子


「たかくんおかえり〜〜っ」



家に帰ると、玲からの熱烈な歓迎を受けた。
あー、ほんと癒される……。



「ただいま、れー」



可愛すぎて思わずデレる顔をそのままに抱きついてきた玲を抱きしめ、ひょこっと顔を出して見上げてきた可愛い可愛い玲にキスをした。
そのままいちゃいちゃしながら抱き上げてリビングへ連れていくと玲をソファに下ろし、ジャケットを脱いでネクタイを外すと腕まくりをして俺をじーっと見上げてくる玲を撫でる。

マジでクソ可愛いな……
可愛すぎてどうかなりそうだ。



「たかくんかっこいいねっ」
「れーは可愛いよ」



ニコニコかわいい笑顔を振りまく玲に悶えつつも俺は玲の頭にキスを落とすと夕飯の支度をするべくキッチンに入った。

さて、今日は何を作ろうかな……?
冷蔵庫にあった食材を適当に見繕って料理を始めると、玲がかわいい足音を立てながらこちらへやって来た。
くっ……かわいい……天使かよ。



「ねえねえ、たかくん。明日の人間ドック? ってヤツは早く終わる?」
「隅々まで調べてもらうから泊まりだよ」
「お泊り? どこにお泊りするの?」
「病院かなぁ……だから1日だけ入院、だね」



俺がそう言うと、今までニコニコしていた玲の顔が一瞬にして曇った。
……なにかマズイことでも言ったか? 俺。



「……かない、で」
「玲……?」
「行っちゃ、やだ……」



うるうると目に涙を溜めて俺を見たと思った次の瞬間、玲の目から大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
ボロボロと大粒の涙を零す玲を見て、俺は料理の手を止めて玲に近づき、そっと涙を拭ってあげた。



「大丈夫だよ、玲。すぐに帰ってくるよ」
「や、だぁ……グスンッ……おいてかない、で」
「置いていかないよ」



ボロボロ泣きながら弱々しく伸ばされた玲の手は俺の服を掴み、行かせないと言うようにしっかりと握りしめていた。

……お母さんの事でも思い出しちゃったのかな?
詳しくは聞いてないけど、この様子だときっと病気だったんだろうな……。



「れー……を、おいて……いかなぃ、で……」
「俺は玲を置いて行ったりなんかしないよ」



ボロボロととめどなく溢れる涙を優しく拭ってあげて、また置いて行かれるのではないかと怯える玲を安心させるようにぎゅっと抱きしめた。

震えてる……俺のせいだね、ごめんね……玲。
泣きながら縋りついて俺を離すまいと背中に腕を回す玲に愛おしさがこみ上げて来て止まらなくなる。
最高に甘えん坊で泣き虫のかわいいかわいい、愛おしくてたまらない恋人が今目の前に、俺の腕の中にいる。



「いっちゃ、やら……もん」
「ん、ごめんね」
「れー、が……いぃ子、じゃ……ない、から……? れ、が……わがまま、だから? れー、わるぃ、子……?」



縋るように大粒の涙を零しながら見上げてくる玲に俺は優しく微笑んで涙を拭ってあげる。

あぁ、玲はあの頃から……母親が亡くなる前の頃から心が成長してないんだ……囚われて置いてきぼりなんだ……あぁ、なんて愛おしいんだろう。大丈夫だよ、玲。
今は俺がいるからね。






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