その壁、ぶっ壊してやる


「あぁ、ダメだ」
「なん、で」
「愛してるからだって言ってるだろ」



ポロっと瞳から溢れた涙を優しく拭うと、乙葉はまた俯いて力なく俺の胸元を拳でまた殴り出した。
それでもさっきとは違い、肩を小さく震わせて泣いていた。



「信じられるわけ、ない、でしょ……ばか、なの?」
「あぁ。信じなくて良いから俺に愛されてろ」
「いや、よ……やめて、もう、言わないで……おねがい」
「やめねぇよ。何度だって言ってやる……愛してるってな」



乙葉がどうしてここまで愛される事を嫌うのか知らない。
だが理由なんて俺には関係ない。
俺が愛したいから愛を注ぐだけだ。

初めて愛おしいと思った女だから、
俺に愛を教えてくれた唯一の人だから、
だから、多少強引だろうが乙葉の心の内にある壁をぶっ壊してでも愛してやる。
一生分の愛情を注いでやる。



「乙葉、愛してる」
「やめ、て……いや、やめて」
「すげー可愛い。マジ愛してる」
「やめっ……」



肩を震わせながら両手で耳を塞ぎ、まるで子供のようにいやいやと首を横に振る乙葉。

あぁ、すげー可愛い。愛おしい。
溢れ出して止まらなくなったこの感情で、駄々をこねて俺を拒絶する乙葉を包み込む。



「乙葉」
「いやっ……やめっ、も、やめて」
「それは無理だ」



何かから必死に自分を守ろうとしてるのか、震えながらも目の前にあるその壁を必死に守ろうとしてる。
きっとその壁の奥に乙葉の本心が隠れているに違いない。



「乙葉、もうやめろよ」
「なに、が……?」



どうせ俺はこの先乙葉を手放す気なんて更々ないからさっさとこの壁を壊す方が得策か。
乙葉には悪いけど。



「なにを必死に守ってんのか知らねーけど、本当は乙葉……愛されたいんじゃねーの?」
「っ、違っ……」
「何が違ぇんだよ。ただ怖いだけだろ? 本気で愛されんのが怖いんだろ。愛されたことねーから。だから信じねぇって自分の心を偽ってたんだろ?」
「うるさいっ」



ドンッと俺の胸を押し返して距離をとった乙葉。

油断した。
抵抗がなくなったから力を緩めてたから簡単に離れることを許しちまった。



「あんたに、何が分かるっていうのよ」
「何も分からねーよ。乙葉の考えてることなんてな」
「だったら、今まで通りでいいじゃないっ。なんで愛してるなんて言うのよ……」



そう言うと乙葉は両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んで本格的に泣き出した。

俺たちは会社や世間体の為に好きでもない同士で結婚したから、お互いのことをなにも知らない。
だが、知るのは今からでも遅くはない筈だ。



「仕方ねーだろ。愛しちまったんだから」



乙葉を包み込むように座り、肩を揺らしながら泣く乙葉の頭を自分の方へと引き寄せてそっと抱きしめる。
今まで聖母のように無償の愛を俺に注いでくれて大きく見えた乙葉が、今はこんなにも小さくて怖くて仕方のない愛に縋ろうとしてるのが愛おしくてたまらない。



「いらないっ、て……言った、のに」
「あぁ、そうだな」
「しんじ、れないっ……て……いっ、た」
「怖かったんだろ?」



俯いて俺に顔を見せようとしてくれない乙葉だが、泣きながらも控えめに俺の服を掴んでいる所を見るとすごく可愛らしくて、愛おしくてたまらない。
今までの分、めいいっぱい甘やかしたくてたまらない。



「ばっ、か、じゃなぃ……の」
「乙葉もな」



自分を偽って生きていくのは辛い。
それは俺も経験してるからよく分かる。
痛いほどに。

俺は乙葉に救われたから、今度は俺が乙葉を救う番だ。
とりあえず、壁をぶっ壊さねーとなにも始まらねぇけどな。



「だからお前は一生俺に愛されてろ」
「だから……!」



反射的に顔を上げた乙葉の唇をまた奪う。
さっきよりも甘く、愛情をたっぷりと注ぐように。
今まで乙葉に貰った愛情を返すようにキスをする。




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