その壁、ぶっ壊してやる


これ以上、待つのは御免だ。


俺は背を向けてハンガーに掛けた上着をクローゼットに仕舞おうとしてる乙葉に背後から抱きしめた。
すると乙葉はビクッと肩を揺らし、俺の腕から抜け出そうともがいた。



「ちょっと……やめてよ」
「もう限界だ」
「なにが」
「愛してる」
「っ、」



逃げ出さないようにきつく抱きしめて耳元でそう囁くと、乙葉はさっきよりも肩を大きく揺らして、そして震えた。
分かってはいたが、ここまで分かりやすい拒絶反応を示されると少し傷付く。
まあ、逃がす気なんてさらさらないけど。



「やめてって、言ったよね?」
「あぁ、言ったな。でも関係ねーよ、俺はお前を愛してる」
「ほんと、虫唾が走る。やめて」
「やめねぇよ。お前が、乙葉が信じるまではな」



普段の柔らかい口調から一変して、全てを拒絶するような声色で訴えてくる乙葉。
それでも俺は閉じ込めていた分、溢れ出して止まらない愛情を乙葉に注いでいく。
どれだけ拒絶されても、泣かれても。

あ、泣いたら泣いたで唆るけどな。



「信じられるわけないでしょ。ほんともうやめて、離して」



そう言いながらさっきよりも大きく暴れ出した乙葉。
それでも力の差は歴然で、ただ俺の腕の中でもがくだけだった。
それすらも愛おしくてたまらないと思う俺は、いまだに暴れる乙葉の首元に顔を埋めてそっと首筋に唇を這わせた。



「っ、な……んなの、やめてよ」
「信じるまでやめねーって言っただろ」
「ばっかじゃないの」
「あぁ、そうだな」



今まで我慢してた俺が馬鹿だったよ。
乙葉に触れるだけでこんなにも愛おしくてたまらなくなるとは思いもしなかった。
もっと早く知るべきだった。



「ほんと、お願いだから離してよ」
「嫌だ」
「なんでよ」
「愛してるから」
「っ、だからやめてって」
「うるせぇ」



ギャーギャーと煩い乙葉を黙らせるべく、俺は暴れる乙葉を一度離して解放してやって逃げようと離れる乙葉の腕を掴んで引き寄せるとそのまま今度は正面から抱きしめた。
そして、顔を上に向けさせると何か言おうとしたその口を同じソレで塞いだ。
キスをすると、乙葉はピクリとまた肩を揺らした。



「な、にして……」
「なにってキスだけど」
「なんで……」
「なんでってそりゃ愛してるからに決まってんだろ」
「だかr」



言葉を遮るように何度も何度も唇を重ねた。
無駄な抵抗だが乙葉は離れようともがき、唇が離れるたびに抗議に口を開いた。

まあ、何か言おうとするたびに俺がキスするから言葉は紡がれることはないけど。


腰を抱き寄せ、顎に手を添えてキスをする。
結婚式以来、余程のことがない限り男女の触れ合いをしてこなかったからその間を埋めるように、感触を楽しむようにキスをしてそっと舌を入れた。
すると、乙葉は目を見開き俺を突き飛ばそうと身体の間に手を差し込んで胸元を押してきた。
それでも俺はそんな可愛い抵抗を物ともせず腰を抱く力を強めて逃げ惑う乙葉の舌を絡め取った。



「ん、ぅ……」



鼻にかかった甘い吐息を漏らす乙葉に、ゾクゾクしつつ口内を堪能するように舌で愛撫する。
角度を変えながら何度もキスを繰り返すと、飲み込みきれなかったのかどちらのものか分からない唾液が乙葉の口の端から零れ落ちるように肌を伝った。
それを指で拭うと、乙葉は唇をキュッと一文字に結びドンッと俺の胸元を拳で殴った。



「なんだよ」
「なんで、やめてくれないのっ」
「んなの愛してるからに決まってんだろ」
「ふざけんな」
「ふざけてねーよ」



俯きながら何度も力任せに殴る乙葉の手を掴んで止めると、少しの間抵抗をしたが次第にそれも止まり、俯いたまま額を俺に押し付けるようにもたれかかってきた。
さっきと様子の違う乙葉を心配に思いつつもそっと抱き寄せると、何故か抵抗を示さなかった。



「乙葉?」
「なんで……のよ」
「なに?」
「なんで、愛しちゃうのよ……今までのままじゃ、ダメなの……?」



そう言って顔を上げた乙葉。
そんな乙葉の顔を見て俺は息を呑んだ。

初めて見る、目に涙を溜めて恐怖に怯えるを乙葉の顔に俺は不謹慎ながらも目を奪われた。
綺麗だと、そう思った。




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