置いて行かないで、と泣く愛し子


「れーはすごくいい子だよ。それにこんなに可愛い子が悪い子な訳がないよ」



きっと玲のお母さんも同じこと思ってるよ。
こんなに可愛くて素直な子が悪い子なわけがない。



「れー、の……大好きな、ひと……うばわない、で……やだよぉ」



縋りつくように、離さないように……離れないように俺の胸に顔を埋めて泣きついてくる玲。
俺は優しく撫でるとそっと玲を抱き上げ、ソファを通り越して寝室へ向かいベッドに座って膝に乗せると、嗚咽を零しながら泣きじゃくる玲をなだめるように撫でる。



「どこにも行かないから好きなだけ泣いていいよ」
「っ……グスンッ……ヒック」



首元に顔を埋めて泣きじゃくる玲の涙でワイシャツが濡れてひんやりとしてきた。
普段なら俺の前でも泣こうとしないほど強情なのに、今は涙が止まらないほどボロボロと大粒の涙を零して泣いてる。

なんて愛らしい子なんだろう。
愛おしくて愛おしくてたまらない。



「れー、大好きだよ。俺はれーを置いてどこにも行かないよ」



俺の言葉が届いていないのかずっと行かないでだの置いて行かないでだのなんだのを繰り返しうわ言のように泣きながら呟く玲に、俺は何度も何度も言い聞かせる。
そばにいる、と……どこにも行かない、と。





****





どれぐらいそうしていたのか……長かったのか短かったのか分からないが、玲の涙が少しずつだが止まってきた。
そろそろ言葉が通じるかな?



「玲、俺の話聞いてくれる?」
「……や、だ」
「どうしてもダメかな?」
「ん」



顔を埋めたままの玲は小さく頷くと、ぎゅっと俺の背中に回している腕に力を込めた。
あぁ、もう……可愛いなぁ。



「玲、人間ドックっていうのはね、身体の中に病気になる悪いヤツが居ないか調べる検査なんだよ。だから何も心配ないって言われたらちゃんと帰って来られるんだよ」



嫌だと一度は拒絶されたが、俺は気にせず玲を抱きしめながら背中を撫でて安心してもいいと伝える。



「グスッ……ほん、と……?」
「本当だよ。玲とずっと一緒に居られるようにちゃんとお医者さんに診てもらわなきゃね」



うるうると目に涙を溜めて俺を見つめてくる玲に優しく微笑みかけ、目元にキスを落とす。

不安にさせてごめんね、もう大丈夫だよ、と。
玲を置いて行ったりしないよ、と。



「たぁくん、すぐかえってくる……?」
「すぐに帰ってくるよ」
「れー、おいてかない……?」
「置いて行かないよ」



不安でいっぱいの顔をして縋ってくる玲に俺は優しく微笑みかけながら安心してくれるように言葉を返す。

入院って単語は玲にとってはトラウマなんだろうな……
一番甘えたい時期に母親と引き離されて、面会出来たとしても限られた時間しかなくて。
寂しかったんだろうな……だからこんなにも必死になって甘えてくるんだ。
可愛いなぁ……もう安心していいよ、玲。
俺は玲を置いてなんて行かないから。
寂しい思いはさせないよ。






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