僕の嘉純なのっ!
そんな時、トタトタと軽い足音と共に嘉純を呼ぶ声が2人に近づいて来た。
2人が声の方を向くと同時に何かが嘉純に飛びついた。
「わあっ……和泉?」
「いっぱい探したんだからねっ!」
ぷくっと風船のように頬を膨らませて数センチとも違わないよく似た顔の嘉純を見つめるのは、嘉純の双子の弟の和泉だった。
黒髪のようでよく見ると光の加減で藍色に光るサラサラとした髪をしている和泉は、嘉純をぎゅうぎゅうと抱きしめて一向に離れる気配がなかった。
「ん、と……ごめん?」
「もうどっか行っちゃダメだよ? 僕から離れちゃだめ」
「ええ? それは無理だよ……」
側にいる霧人そっちのけで2人の世界に入っている嘉純と和泉だったが、和泉がふと霧人の方を見た瞬間にほんわかとした空気が一変した。
今まで嘉純しか見えていなかった為か、急に第三者が自分たちのことを微笑ましく見守っている事に気がついて和泉は嘉純を抱きしめたまま霧人を威嚇したのだ。
「だれぇ? 僕の嘉純だよ。誰にもあげないっ」
年上だろうがなんだろうが気にしないのか、和泉は静かに獣のように威嚇している。
そんな和泉に霧人は困ったように笑みを浮かべ、これ以上刺激して嘉純を苦しめるような事にならないように自身の名前と何もないことを伝えた。
「俺は藤井 霧人。ここの3年だよ。俺はその子が困ってたから助けようとしただけでその子とは何もないよ。取って食おうなんて思ってないから安心して?」
と、本当の事を霧人は話だが、和泉は聞こえないとでもいう風に威嚇をやめない。
そんな和泉に嘉純が、もぞもぞと両手を和泉の拘束から引き抜いてバチンと両手で和泉の両頬を叩いた。
いきなりの行動に驚いた霧人と叩かれた和泉だったが、嘉純はじっと和泉を見つめて今度はむにっと頬を摘んだ。
「いひゃい……」
「和泉が悪いの。ふじぃせんぱいはほんとに僕を助けてくれたの!」
「れも……」
「でもじゃないっ。だから威嚇しちゃダメ。分かった?」
「はひ」
「ごめんなさいは?」
「ごれんらはひ」
先ほどまでの態度とは180度も違う嘉純の和泉に対する対応に、霧人はクスリと笑った。
仲睦まじい子達だな、と。
「えっと……嘉純くん? そんなに引っ張ると和泉くんのほっぺが赤くなっちゃうから離してあげて?」
霧人の言葉に渋々手を離した嘉純は、自分の頬を摩りながら霧人のことをいまだに警戒して威嚇し続ける和泉をじっと見た。
「和泉、めっ」
「だあーってぇ……僕の嘉純なんだもぉん」
「学校では我慢する約束だったでしょ?」
「ぶーぶー」
けち、なんて言いながら嘉純に甘えるようにぐりぐりと頭を擦り付ける和泉に、嘉純は眉を下げて困った顔をしてちらりと霧人を見上げて助けを求めた。
そんな嘉純に、霧人はキュンと心をトキめかせて顔に出さないように悶えた。
なんて可愛いんだろう、と。