愛しい子 「和泉、好きだよ。愛してる。だから俺のそばにいて」 反応のない和泉にそっと語りかけるように囁く。 そして、ぎゅうっと更に抱きしめると和泉がもぞもぞと動いたから少しだけ力を弱めて顔を覗き込むと、和泉の目に光が戻ってきていた。 ……よかった。 「ぼく、ひろのとなり、いていい……? ずっと、いいの?」 「あぁ。ずっと隣にいていい」 「だいすきで、いい…の……?」 「いいよ。俺も和泉が大好きだし」 ニッと笑えば、和泉はくしゃっと涙でぐちゃぐちゃな笑顔を浮かべて脱力するようにもたれかかってきた。 そっと抱き寄せて撫でると、和泉は気を失うように眠りについた。 俺は和泉を抱き上げると寝室に向かってベッドにそっと寝かせると、顔にかかった髪をそっと退けて涙で濡れた目元を優しく拭ってあげた。 なにがきっかけで不安に思ったのか見当がつかないが、きっと俺の何かが原因なんだろうな。 「ごめんな、いずみ」 もっと俺が和泉の事を見てたらこうならなかったのかもな。 なんて考えながら、ふと流しの水が出しっぱなしだったのを思い出してそっと離れて水を止めに行くと、和泉の不安の原因が少しだけ分かった気がした。 キッチンから見るリビングの景色は、普通に見れば見晴らしが良くていい景色だが、少し見方を変えればガランとして寂しさを覚える景色だった。 和泉はいつもこの景色を見てんだよな…… 「話してくれればいいのに……」 なんて言ったところで和泉はきっと話してくれないんだろうな。 なんでもかんでも抱え込んで1人で泣くような子だしな……なんて考えたところでなにも変わるわけじゃない。 和泉がもっと自分の事を話してくれるような環境を俺が作っていくしかないんだ。 そんな事を考えながら和泉の元に戻って隣に寝転んでそっと抱き寄せる。 すると、すりすりと顔を胸元に擦り付けてきた和泉。 ふと起きているのかと思って顔を覗き込むと、すやすやと規則的な寝息を立てて寝ていた。 無意識にすり寄ってくるとか天使かよ、なんて静かに悶えながらもなんとか落ち着かせて俺も眠りについた。 明日は一日中甘やかしてやるんだと意気込みながら。 ー END ー [3/3] |