愛しい子 俺が和泉を突き放すような冷たい声を掛けた所為か、和泉は膝の上にこそ座っているがしがみついていた身体を起こして、何度も何度も目を擦りながら止まらない涙を拭っている。 きっと今、触れようとすれば和泉はビクリと肩を揺らし俺を拒絶する。 「なら、教えてくれよ」 お前が抱えてるもん全部。 和泉が不安になる事の全てを俺に曝け出してくれ。 俺は侑亜ほど気が長いわけでも、霧人ほど包容力があるわけでもない。 目の前の事で手一杯で、特に和泉に関しては自分でも笑っちゃう程余裕がない。 「なぁ、和泉。俺には話してくれない? どんな些細な事でも和泉の事なら全部知りたいんだよ」 「……っ、…で、も……」 「悔しいけどさ、和泉の事になると俺、余裕ねーの」 だから、どんな事でも知りたいと思う。 これから先、和泉の事は決して手放す気はさらさらないし、だからこそなんでも知りたいと思うのは傲慢なのか? 「だからさ、ゆっくりでいいから話して?」 「…………きらいに、ならない……?」 「ならないよ」 どんな事でも、和泉の事なら受け止める覚悟は出来てる。 和泉の過去の事も、侑亜を通してだが多少は聞いてる。本当は和泉本人から聞きたいが、きっと話したくはない筈だからその時が来るのを待つつもりではいる。 「あの、ね…? ひろが、ね? どっか行っちゃうって思ったの」 「なんでそう思った?」 ぎゅうっと俺にしがみつきながらポツポツと話し出した和泉に優しく相槌をうつ。 「ぼく、が……いい子じゃない、から……っ……ひろが、ぼくのこと、もういらないって……でも、ぼく…ひろ、だいすき、だから……はなれたく、ない…から……でも、でも…」 ボロボロと大粒の涙を零しながら俺に縋るように見つめる和泉の目から光が少しずつ失われていくのが分かった。 このままじゃヤバいと思った俺はしっかりと離さないように抱きしめて、和泉の顔を首元に埋めるように固定した。 「和泉はいい子だよ。俺にはもったいないぐらいすげーいい子なんだよ。それに、俺には和泉が必要なんだ……だから手放すわけないだろ? 俺だって和泉が大好きなんだよ。すげー愛してる」 侑亜にずっと言われていたのに、俺だって分かっていたハズなのに俺の何かが和泉を不安にさせた。 ふとした瞬間に簡単に闇に呑まれる和泉だからこそ、注意しろって散々侑亜に言われてたのにな。 ごめんな、こんな俺で。 [2/3] |