宏斗×和泉 | ナノ





悪夢に魘されて。


あの涙の跡は悪夢を見ていたから出来たのか。
なのに俺は……



「ごめんな和泉。1人にして」
「ばかぁ……グスンッ……おそ、ぃ」



ぬいぐるみを抱きしめながらポロポロと涙を流す和泉はもう逃げはしないだろう。
俺は立ち上がると、部屋の片隅で蹲って泣いてる和泉に近付いてそばに座るとそっと抱き寄せた。
すると、和泉はぬいぐるみを離して縋るように抱きついてきた。



「怖かったよな、ごめんな」
「ひとり、やなのにぃ……ばかぁ……きらいっ」
「うん、ごめん」



和泉はいつもそうだった。
悪夢を見た日は1人で泣いて我慢するんだ。
最近は前ほど見なくなっていたから油断した。

俺が気づいてやらないと和泉は話さないんだから……ほんとダメだな、俺。



「もう置いてかないで……」
「絶対もう置いてかない」
「ひとり、いや」
「もう1人にしねぇから安心しろ」



安心しろ、なんてどの口が言ってんだか。
それでも今は和泉を安心させる言葉をかけてやる。

和泉がこれ以上泣かなくていいように、
これ以上不安に思わなくていいように。



「ほん、と……?」



涙でぐちゃぐちゃな顔で縋るように見上げてくる和泉がこの上なく可愛くて、今までぬいぐるみに嫉妬していたどす黒い感情が澄んでいく。
ほんと俺、和泉に弱いよな。



「当たり前だろ」



ぽんぽんと和泉の頭を撫で、俺は和泉を抱いたまま立ち上がってソファに移動してそのまま座って安心させるように撫でてやる。
和泉はまだ不安なのか、ただまだ怖いのか未だにポロポロと涙を流しながら俺に縋りついて離れようとはしない。
小さな身体で必死に離すまいと抱きついて縋りついてくる和泉はほんと可愛い。

いつまでも、いつでも俺の心を掴んで離してはくれない。
なんで俺の嫁はこんなにも可愛いのか。



「ひろぉ……」
「ここにいる」



グリグリと頭を俺の首元に押し付けては何度も何度も俺の名前を呼んで、そして何度も背中に回している腕に力を込めて縋りついてくる。
『ぼくの』やら『あげない』だのと譫言のように繰り返す和泉。
何に対して、誰に対して対抗してるのか分からないが、もっと俺を独占してくれとさえ思ってしまう。
和泉が必死に俺を独占しようとしてるその姿が可愛すぎてどうにかなりそうだった。

もっともっと、今以上にもっと俺を独占したらいい。
例え和泉が病んでも、それでも俺は和泉だけを愛する自信がある。
むしろ、和泉しか愛せない自信しかない。



「和泉、好きだ」



和泉の全てが愛おしくて、全てが大切すぎて、それ故に手放すことができなくて。
素直になれなかった俺は何度も和泉を泣かせてきた。
本当に最低なことをしてきたんだ。
そのたびに和泉は笑って許してくれた。
そんな和泉に俺は甘えて、甘えてきた。

だけど和泉の心は俺が思っているよりもはるかに弱くて脆かった。
愛しているからといってもちゃんと言葉にしないと和泉は不安に感じて俺から距離を取ろうとする。
何度伝えても、何度も何度も不安になる。



「ぼく、も……ひろが、すき」



顔を上げて目を合わせるとふにゃりと笑った和泉。
その顔が、その言葉がどれだけ俺を夢中にさせてるか考えたことあるのか?
なんて問うたところでそれは無に終わる。

和泉はそんな事関係ないというように毎日、毎時間毎分毎秒俺を夢中にして離してくれないんだからな。



「なぁ和泉」
「なぁ、に?」



俺を不思議そうに見上げてくる和泉の目元をそっと撫でて涙を拭ってやる。
すると和泉はふにゃりと幸せそうに笑う。
ほんと、くそかわいい。



「今度からは怖い夢見たら俺を起こして」



そしたらすぐに忘れさせてやれるから。
1人で抱えられるよりはるかにその方がいい。



「……ん、わかった」



若干無理したような笑みを浮かべる和泉に申し訳なる。
俺の我儘で和泉には無理をしてほしくはないが、やっぱりこればかりは譲れない。
これ以上俺の知らない所で、俺のいない所で泣いてほしくない。

俺はまたそっと和泉を撫でるとそのまま顔を近づけてキスを落とした。
そしてゆっくりと離れると、和泉の腕が首に回されて引き戻されてもっと、と強請られているようでそれに応えるようにキスを深くしていくと小さく、それでいて甘い声が和泉から漏れてくる。
愛おしくて愛らしくて、和泉のペースに合わせながら舌を絡めてひと時の戯れを楽しんでいると息継ぎの合間に甘く蕩けるような吐息混じりに名前を呼ばれてぎゅっと心臓を鷲掴みにされる。



「ひろ……」
「ん?」
「なにも考えられないぐらい滅茶苦茶にして……?」
「っ、仰せの通りに」



あんなの殺し文句だろ、なんて思いながら再びキスをしてそのままなだれ込むようにソファに倒れこむ。
愛していると、お前しか俺にはいないんだと伝えるように何度も何度もキスを繰り返しながら甘い甘い渦の中に沈んでいく。



「いず、愛してる」



今はただ何も考えずに甘い快楽の中で溺れていな。
何もかも俺色に染め上げてやるから。



ー END ー



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