目を逸らされるのは照れてるからじゃないって気づこうね
それは昼休みに起こった。
「なあ泉、五限目にオーラルがあるんだけど俺辞書忘れちゃってさ……悪いんだけど貸してくれる……ってなにやってんのあの二人」
人懐こそうな笑みを浮かべて泉くんに話しかけてきたのは彼のチームメイトの水谷文貴くん。
「あぁ、アレな……まだ時間あるなら少し見てけよ、面白いから」
不思議そうに首を傾げる水谷くんにニヤリと笑う泉くん。
ただいま我らが四番の田島くんと私は今無言の攻防を繰り広げています。遠目で見ていると泉くんと水谷くんがこちらを見ていることに気付いた。見てないで助けてくれてもいいのに、泉くん絶対楽しんでるって顔してるし。はぁ自分でなんとかしなくちゃ駄目か……。
「なあなあれんかー頼むからこっち向いてくれよ」
「嫌」
「なんでだよ」
「嫌だから嫌なの」
「そんなこと言うなよー」
「絶対嫌」
きっぱりと断ってみてはいるが、諦めてくれる気なんて全く感じない。こうなった彼は何を言っても聞いてくれないのはもう知っているけれど、私もここで引き下がるわけにはいかないのだ。私の想いなんて知るよしもない田島くんはそれでも、なあなあと身体を前後に動かしながら問い掛けてくる。頭がぐわんぐわん回る。
(早すぎて心なしか残像が見える……)
「なあなあ、かまってくれよ」
「全くうるさいって――……」
「あ、やっとこっち向いてくれる気になったのか」
「言ってるでしょ!」
「ウゴァッ!?」
渾身の力を込めて放った右手が火を吹いた(実際には吹いていない)ほんの少し静かにして欲しくて手を出したがクリティカルヒットはしていないと思うけれど、突然のことで驚いたのだろう。盛大に後ろに倒れた。 クラスメートたちにとってはいつも通りの日常なのでマイペースに思い思いのことをして過ごしている。
「なあ、泉アレ平気なのか凄い落としたぞ!?」
「平気だろあのくらい普通普通」
「しかもなんでお前のクラスメート動揺しないんだよ」
「こんなんで驚いてたらお前このクラスにいられねーぞ」
「どういうことなの!?」
(私のクラスって逞し過ぎるのかなあ)
倒れたまま動かない田島くんを見て呑気に思った。
「おい。お前らちょっとは静かにしろよな……おい、田島さっさっと起きろ」
「た、田島くん、だっ…大丈夫?」
泉くんは足で軽く蹴って声を掛けて、三橋くんは田島くんの心配をしている。今更ながらみんな性格も違うのに仲良くしてるのって何だか不思議。
「田島悠一郎、ふっかーつ!」
「お、おおー……?」
突然立ち上がる田島くん。もっと普通に起きられないのか彼は。
「田島お前うるさい」
「オレは知ってるかんな。れんかは照れ隠しでやったって……照れなくてもいいのに」
「ないから!」
ニシシと笑う田島くんに全力で否定する。照れているわけではないし、照れ隠しでもない。ただ単にうるさかっただけなのに、どうして彼はそんなとんでもない解釈をするのか。結構長い間彼のクラスメートとして接しているけど彼に慣れる日が来るのか、いや、未来永劫来ないことを切に願う。