覗きが趣味です
 
(おかしい…)
 
私は頭を抱えて今までの数日間を振り返っていた。
 
それは阿部くん気持ち悪い行為が日に日にエスカレートしていったことまで遡る。
 
どんなに注意をしても止めようとしない、いや、止めようとするとエスカレートしていく阿部くんに野球部全員が怒ったのだ。怒ったなんて生易しい表現じゃない。あの時は私が怒られていた訳でもないのに泣きそうになった程だ。思い出しただけでも身震いがする。

 
それからはほんの数日間、彼は野球部全員の制裁が余程堪えたのか私を追いかけ回していたのが嘘のようにぱったりと止まった。もう以前のような思いをするのはもうないと思っていた。
 
だが、そんな気持ちでいたのもほんの少しの間だった。今は違う。きっと何かある。私の中の何かがそう伝えている。

(嵐の前の何とやらってやつだ)
 
ちらちらと辺りを伺って一歩ずつ進む。そしてバッと後ろを振り返る。変わったような所は何もないようだ。私はふうとため息吐く。
 
周りから見たら今の私は挙動不審の怪しい女生徒に写って見えているだろう。

なにこの人?という視線が痛いほど刺さってくる。そんなの気にしていたら負けだとばかりに辺りを警戒する。そこへ一人の天使がこちらに向かって走ってきた。同じ野球部のマネジャーをしている篠岡千代ちゃんだ。今日も千代ちゃんは可愛い。
 
「れんかちゃん、探したんだよ」
「どうしたの?」
 
息を切らせて喋り掛けてきた千代ちゃんにときめきつつ何かあったのかと問い掛けた。
 
「れんかちゃん一人じゃ色々と心配だったから追い掛けて来たんだ」
「千代ちゃん、あなたはなんて良い子なの。抱きしめても良い?」
「えー?いいよー」
 
千代ちゃんから許可を頂いてぎゅっと抱きしめた。女の子特有の柔らかい感触が伝わってきた。あまり長く抱きしめているのもいけないのですぐに離れた。
 
 
(やっぱり女の子はいいなあ。うん。ふわふわでいい匂いがする…)
 
 
カシャ。カシャカシャ。
 
何処からか写真のシャッター音が聞こえた。
 
(嫌な予感が)
 
もしやと思いつつシャッター音がした窓の外へ顔を出すと"しまった!"というような顔で固まっている阿部くんと目が合った。いや、合ってしまった、という方がいいかもしれない。
 
「何、してるのかな。ねえ、阿部くん」
「あ、えーと。趣味の盗撮……野鳥撮影を」
「バレバレな嘘吐かない」
「嘘じゃない」
「じゃあそれ見せて」
「それは駄目だ」
 
「………………」
 
「…それ見せてくれたら写真撮っても良いよ」
「どうぞ!」
 
阿部くんから差し出されるカメラを半ば引ったくるように受け取る。どんな写真を撮ったのか確かめていると千代ちゃんも気になったのか隣から顔を覗かせる。
 
「ちょっと待ってこれいつの写真よ、ギリギリアウトな写真ばっかりじゃない。ていうかあの時の視線やっぱり阿部くんだったんだ」
「頼むからそれは消さないでくれ、ベストショットなんだ」
「盗撮は立派な犯罪です。」
 
きっぱりと言う私に「これは流石に駄目だよね…」と困ったように笑う千代ちゃんも同意する。
 
「とりあえずこのカメラのデータは全部消します。花井くんにも連絡しますからね」
「そ、それだけは……っ」
「絶対言います」
「データの消去だけは止めてくれ」
「そっち!?」
 
普通ならそこは「主将には言わないでくれ!」じゃないのか。
 
「……………」
「あっ」
無言でデータを消去する。ピッと無情な音が鳴る。
「うわああああ」
 
それとほぼ同時に阿部くんの悲痛な叫びが響いた。


[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -