今、どこ触ってるんですか?
最近、いや、西浦に入学してから何故か舐め回すような視線を感じるようになった。
 
 
まぁその視線の主は大体分かっているんだけど。
 
「もういい加減姿を見せたらどうなの」
「…………」
「…返事はないが気配は有り、か…」
 
ちらりと視線を端の方へと移せば最早音速を超えたであろうスピードで消えた。
早すぎて見えなかったがきっとアイツだ。もう何度注意してもなかなかこちらの話を聞いてくれる気配がなく、もうどうしたら良いか頭を抱える程だ。
 
前に一度花井くんに相談しようと思ったけどこれ以上彼の心労を増やすわけにはいかないと思い、自分でなんとかしようと頑張っているが上手くいかない。本当に物事って上手くいかないものだ。
 
 
(そんなことより何処へ消えたんだ……?)
 
 
きょろきょろと辺りを見渡せばそこに誰一人いない。さてどうしたものかと深い溜め息を吐けばまた背後に先程感じたねっとりと絡みつくような視線。
 
(しまった、油断した)

「おーっとすまないれんか転んでしまった」
「!?」
 
大袈裟に私の足元に野球部でも見せないような見事なスライディングをやってのけた。突然のこと過ぎて呆気にとられてしまったが彼の思惑に気付きサッと避ける。
 
もしかしなくてもスカートの中覗こうとしてた。犯罪ですよ、それ。
 
 
「合意の上ならセーフだろ」
「どこからどう見てもアウトだよ」
 
 
良い笑顔で言っても無駄だからね。ていうか、あんた腐っても捕手なんだから自分の体に気を使いなさいよ。言ってやらないけど。
 
それに、只でさえ人数がギリギリで大変なんだから。怪我なんてしたら三橋くんだって泣いちゃうでしょ。
 
それに副主将なんだからそんなくだらないことで怪我しただなんて言ったら花井くん頭抱えちゃうでしょ。ああ見えて意外と繊細な人なんだから。
 
 
「そんな訳ないでしょ。こんなの誰がどう見てもわざと転んだようにしか見えないから、この変態」
 
 
変態。もとい阿部隆也君は目を爛々と輝かせて、ついでに手をワキワキと蠢かしながら一歩また一歩とこちらに這いずり寄ってきた。こんな動きホラー映画でしか見たことないよ……ってそうじゃなくて立って歩きなさいよ。否、来なくていいです。
 
 
「来ないで…ってぎゃぁぁぁあ!」
 
 
後ろも見ずに下がっていたら自分の足に引っかかって転んでしまった。予想外の出来事に避けることが出来ず、彼と一緒に転ぶことになってしまった。
 
 
「……あれ、痛く、ない……?」
 
これから来る筈の痛みに両目をぎゅっと瞑ってもなかなか来なく、恐る恐る両目を開いてみる。
 
(ななななんでだ!?)
 
すると、あれ程の勢いで倒れたのにもかかわらず私には傷一つなかった。精神的ダメージが酷かったけど。それはさて置き、どうして痛くないんだろう。
 
 
「ふふふ…悪いな、れんか。たまたま何もない所で、偶然に転んでしまってちょうど近くを歩いていたれんかを巻き込んでしまうことになるとは思いもしなかったぜ」
 
「そんな偶然ある訳ないでしょ、この馬鹿」
「グハッ!」
 
 
おーけい。百歩譲って偶然転んでしまったことにしよう。でも、息継ぎも忘れてペラペラとまくし立てるように謝るヤツが何処にいるのか。きっと何度も何度もシミュレーションをして練習したのだろう。それほどまでに淀みがなかった。もう前からだったけど正直引いてる。
 
 
真顔でとんでもないことを言う阿部君には制裁を下した。
 
「おっとすまんれんか、偶然手がれんかの控えめな胸に…」
「黙ろうか。そして控えめ言うな」
 
 
控えめな胸で悪かったわね。どんなに注意しても怒っても反省の色を見せない、それよりも興奮をする阿部くん。もう怒るのも疲れた。誰か私の代わりになってくれる人いないかな……いないか。


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