ファートスキス覚えてる?
「ねぇ梓」
「おうなんだ」
 
ただいま授業の間の休み時間。次の授業の準備をしている梓を横目でちらりと見て話しかけた。別に邪魔とかしたくて話しかけた訳ではなくてただ単に暇だったからだ。だからこれから振る話題もそんな理由だったりする。
 
 
「ファーストキスって覚えてたりする?」
 
「はぁぁぁ!?れんかいきなり何言ってんだよ」
 
「あれ、どうしたの梓。そんなに慌てて」
 
いい音を立てて手に持っていた教科書類をバサバサと落としている。あれ、私何か変なことでも言ったっけ。普通の学生ならこのくらいの話題なんてどうってことないだろう。照れる年でもないだろうに。
 
面白い程狼狽える梓と一緒になって散らばった教科書を集めながらそんなことを思っていると顔を赤く染めた梓がこちらを恨めしげにじっと見ていた。
 
ちょっとあんた怖い顔してるよ。眉間に皺なんて寄っちゃってるし、ただでさえ野球部の事で気を揉んでいるのにまたそんな顔すると将来大変だよ。
 
それにしても恐ろしい顔してるなー。もし私が手鏡を持っていたら今の顔見せてあげられるのに。そう言ったらふざけんなって怒られた。
 

(な、なんだ)
 
思わず身構える。
 
「お前には恥じらいってもんがないのか」
 
大袈裟な程溜め息を吐く梓。え、ちょっと止めてよ。まるで私には恥じらいってもんがないみたいじゃない。少しくらいは持ち合わせてるよ。ただファートスキスで右往左往する梓には負けるけど。今度こそ口に出すとヤバいので言わないけど。
 
「え、別に……」
 
「少しは恥らえこの馬鹿れんか」
 
「いたっ」
 
軽くチョップされた。思わず痛いと口に出して言ったが全然痛くない。梓ってこういうところ優しいよね。思ってても言ってやらないけど。
 
「ったく……」
 
私に呆れたのか梓は先程よりも疲労が溜まっているように見えた。そんなに疲れたのと聞くと誰のせいだとまたチョップされた。え、私のせいなの酷くない?。
 
「……ねぇ梓」
 
さっきふと疑問に思ったことを聞いてみる。
 
「なんだよ」
 
「もしかして照れてる?」
 
今の私凄くにやにやしてるかもしれない。それもこれも全部面白い程慌てる梓のせいだ。私が悪いわけじゃないよ、うん。
 
「そ、んなことねーだろ。ばっかじゃねぇの」
 
「馬鹿馬鹿言うなこのハーゲ」
 
「ハゲじゃねえ!これは坊主だ」
 
「ハーゲー」
 
「バーカ」
 
「……花井、藤原お前らいつまで乳繰り合ってる気だ。もう授業始まってるぞ」
 
いつの間にか呆れ顔の先生が私たちに注意をする。授業中が始まっていたのに全然気づかなかった。ああもう先生達には真面目で良い子で通しているにこんなことになったのは梓のせいだ。そうに決まってる。けどその前に一つだけ訂正しなくては。
 

「「乳繰り合ってません」」
 
二人同時にハモってしまった。凄いね流石幼馴染み。息ぴったり!でも全然嬉しくないぞ。梓も同じ考えだったみたいでこちらを睨んでくる。そんな顔をこっち見んな!私は悪くないよ。悪いのは梓でしょと目で言ってみた。そうしたら梓ったらお前が全部悪いって顔でこちらを睨む。
 
 
「分かったから授業させてくれ」
  
低レベルな睨みあいがヒートアップしてきたところで先生の止めが入ってしまった。先生も疲れていると思うけど私も疲れました。授業で寝ちゃっても許してください。梓は私を叩いて起こすのはやめてね。


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