君だけの呼び方
いつからだったが忘れてしまったが、れんかはずっとオレのことを"梓"と呼んでいる。
何度もその呼び方は恥ずかしいから止めてくれと頼んだのだが。
「別に良いじゃん。それに私恥ずかしくないし」
いつ終わるのか分からない、不毛なやり取りの繰り返しを続けている。こんな時、れんかは絶対聞かないと分かっているからオレが折れるしかないのだ。
「梓のばーか」
「…………」
無視だ無視。こういう時は無視に限る。
「梓のハーゲ」
「これはハゲじゃない。坊主だ!!」
「どっちも一緒でしょ?」
「違うわ」
毎日他愛もない下らないやり取りをする。けれど、それを退屈だと思ったことはない。
「なあ。花井」
「ん、どうした阿部?」
頬杖をつきながら水谷をからかって遊んでいるれんかを見ていると阿部がオレに話し掛けてきた。
「そういえば花井って藤原にだけ名前呼び許してるんだな」
「なんだよ、藪から棒に…」
「なんでって…。だってお前、"梓"って呼ぶと怒るじゃねえか」
阿部は近くにあった椅子を引き寄せてオレに向き合うようにして座る。心なしか機嫌が悪そうに見える。
そんな顔をしているから三橋もビビるんだろうなと思ったが、そんなことを言える雰囲気ではなかったので言葉を飲み込む。
「あぁ、そのことな…何度言っても無駄だと思ったから注意するのを諦めたんだよ」
「…ふーーん…」
何故か納得していない顔をする阿部。
(梓ー。みてー!!水谷ったらねー)
(花井…助け…て)
(れんか。止めてやれ)
(やだー)
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