近すぎて見えなかった

外は生憎の雨で野球部の練習は急遽、自主練習になった。花井は少しばかりのトレーニングをして帰ろうとしたその時、向こう側から誰かの声が聞こえた。


「これは…」


間違える筈はない。これは聞き慣れたれんかの声だ。花井は、そろりそろりと近づいていく。れんかを驚かせようと思ったからだ。


近づくにつれ聞き取れなかった会話が耳に入ってきた。


「藤原さん。好きです。僕と付き合って下さい。」

「…あ、あの…その…」

「駄目、ですか?」

「あの、ごめんなさい」

「いや、良いよ。別に。僕も玉砕覚悟だったし」

「ごめんなさい…」



しまった。

そう思った時にはもう遅かった。向こうから近づいて来る男子生徒がオレの存在に気付き、ペコリと軽く会釈をした。それにつられてオレも慌てて会釈をした。



(うわあ…。オレもしかしなくても場違いだったんじゃないか!?)


「あ。梓じゃん…どしたの?」

「うおう!!」


一人で悶々としているとれんかが急に現れた。お陰で間抜けな声を上げてしまった。



「…あ、もしかして今の見ちゃった?」



れんかから見たらオレは酷く動揺しているように見えたのだろう。れんかに図星を付かれて思わず「うっ」と唸ってしまった。



「…気になる?」

「、…気にならない!!」



嘘だ。本当は気になって気になって仕方がない。だが、明らかに今のれんかは、からかう気満々だ。現に今、先刻の間は何だったのかと執拗に追及してくる。


(れんかって実は結構モテるんだな…)


藤原にブンブンと肩を揺すぶられながら花井はそう思った。




(本当は気になるんでしょう?いい加減、白状しちゃいなさいよー)
(気になってなんかねえって言ってんだろ!!)
(むう。素直に気になるって言えば良いのに…梓の馬鹿)


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