少しの度胸を





朝、目覚めれば心地いい光が窓から射し込んでいた。

そっとベッドの端に置かれている時計へと目を向ければそれは部活が始まる2時間前を指している。

どうやら今日は「遅れる!」と慌てる必要は無さそうだ。

「…っし!」

パチン!と自分の頬を両の手の平で打ち気を引き締める。

今日は疑問をさっぱり消しに行くのだ。

一度ゆっくり深呼吸をした俺は部活に行く準備をするためにベッドから這い出たのだった。






…まあ案の定と言うかなんというか、


予想通りとは思うが、俺はこういう事に関して中々一歩を踏み出せないらしい。

その証拠に既に部活が始まって1時間はたつだろうに俺は未だに柳先輩に疑問を打ち明けられずにいた。

そわそわそわそわとただ視線を送るだけに留まっている。自分自身でも思う、言うならさっさと言えと。
俺はまずこんな臆病な性格だったろうか?いや、それは無い。ただ柳先輩との事となると話は別なのだろう。これは流石に否定出来なかった。

そんな事を考えながら、ぼーっと柳生先輩と話している柳先輩を視界に入れていたその時だ。
「赤也危ない!」と幸村部長の声が聞こえたと同時に危険を感じて反射的にラケットを真横に持っていく。しかしそれはガシャンという音と共に弾かれて、勢いの死んでいないボールが見事頭に直撃した。

そのボールを放ったのは真田副部長で、まあそんなものを受けて立っていられるはずもなく。俺はそのまま意識を失ったのだった。



目を覚ましたら真っ白な知らない天井がありましたなんてベタな話で。

ずきずきと痛む頭にゆっくりと記憶を引き出して、俺は今の状況を理解した。
…真田副部長のボールをくらって無事だったのだからまだ幸せなのだろうか。

「いってー…」

「起きたのか?」

「うわ?!」

そっと身体を起こした際に強くなった頭痛に頭を押さえていると、突然ベッドの周りを囲っていたカーテンが捲られた。
そこから顔を出したのは柳先輩である。

「え、何で柳先輩がここに…?」

ドキドキとしている胸を押さえつつきょとんとしながら尋ねれば柳先輩が溜息をつくのが分かった。

「心配だからに決まっているだろう。部活中に心ここにあらずというのはいけないな」

腕を組まれてそう言われてしまえば俺は何も言い返す事が出来ない。

「すみませんっス…」

俺が謝るのを見て満足したらしい彼に俺は加えて「昨日もごめんなさい」と伝えた。何の話だと首を傾げる柳先輩に俺は続ける。

「昨日、1人で先に帰っちまって」

それを聞いて合点がいったのか彼は優しく「謝ることはないさ」と笑った。

「大したこと無さそうで良かったよ、」

じゃあ俺は部活に戻るからと柳先輩は背中を向けてしまう。
俺は慌てて「柳先輩!」と呼び止める。それに彼は不思議そうに振り返った。

聞くなら今しかない

ごくりと息を呑んで、ゆっくりと口を動かした。

「こっちの世界では、俺とアンタは…特別な関係だったりするんすか…?」

言っている間に段々怖くなって最後の方は尻窄みになってしまう。

暫く流れる沈黙の時間がやけに長く感じられた。
室内に響く秒針の音が嫌にうるさい。

「…気付いていたのか?」

戸惑ったような柳先輩の声が耳を叩いた。