固めた決意





何かに集中している時ほど時間がたつのは早い訳で。

気付けば放課後。
昼休みのあの一件から、俺の中での柳先輩への疑問は益々大きくなっていた。
しかし、一度タイミングを逃してしまうと再度尋ねるなんてことは中々に勇気のいるものだ。故に俺はその事に触れるどころか柳先輩の近くに行くことすら出来ずにいた。

普段なら柳先輩ー!と何かある度に柳先輩の近くに行っていた俺が、部活が始まって以降あの人に話し掛けていない…それどころか近付いてすらいないとなれば周りが不思議がっても仕方ないと思う。

「なんだ?赤也お前柳と喧嘩でもしたのかよぃ?」

だから丸井先輩がこうして絡んできても何ら可笑しく無いのだ。…にやにやした顔は気に入らないけど。

「別にそんなんじゃないっスよ」

「そうかそうかー。優しい先輩が話聞いてやるぜ?」

「だから違うって!丸井先輩は面白がってるだけじゃないっスか!」

「あ、分かった?」

ニシシと笑う先輩を見ていると、ちょっと胸の奥からむかむかしたものが溢れて来たがそれを理性で押さえ込む。変わりにでた溜息を見た丸井先輩は、ここでやっと「お?」と首を傾げた。

「何だよ赤也。悩み事か?」

「悩み事っつーか…」

何も知らない第三者に意見を貰うのもいいかもしれない。そう考えて口を開いたと同時によく知った声がコートに響いた。

「丸井!赤也!そんな所で立ち止まって何をやっとるんだ!」

「げえっ…真田…!」

びくりと肩を跳ねさせる俺達に副部長は更に続けた。

「お前達には気合いがたりん!お前達は部活終了後に外周をしてこい!」

「うぃーす…!」

「分かったよぃ…」

只でさえきつい練習であるというのに更に走らせるというのか。

間違いなく鬼だ。

これは俺と丸井先輩の心の声が重なった瞬間であった。






ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返しながら部室のドアをくぐる。
同じように部室に入った丸井先輩は今にも倒れそうだ。まだ部室に残っていたジャッカル先輩に「食いもんと飲みもんくれー」と強請っている。

自分も早く飲み物をとロッカーを開け、部活が始まる前に用意していたドリンクに口をつければ心地よいそれが咽喉を通って行くのを感じた。

今日は朝から多くのペナルティーを受けていた為に何時もより身体は疲れを訴えていて、今日は早く帰って早く休もうと心に決める。

だからろくに周りも見ないでさっさと着替えて部室を後にしたのだ。
自分を見ていた視線にも気付かないで。俺がその事実を知ったのは帰宅後に届いた丸井先輩からのメールを読んでからだった。

『お前本当にどうしたんだ?柳お前の事待ってたんじゃねーのかよぃ?』

メールを読んだ時の俺の動揺と言ったら一言じゃ表しきれないだろう。とりあえず慌てて立ち上がった勢いで家具に足の指をぶつけたとだけは言っておこう、それ以上は思い出したくない。

心配してくれた丸井先輩にはただ『用事があったんス!柳先輩にはまた明日謝りますんで!』とだけ返しておいた。




有耶無耶なままでなく、明日柳先輩にちゃんと確認しよう



そんな決意を固めながら、俺は眠りについたのだった。