疑問とお茶





「そう、か…」

戸惑っているような、そんな柳先輩の声が静かな中庭に通った。
それには信じられないと、そう告げているような色があり、やはり言わない方が良かったんじゃと思う。

「…やっぱ信じられないっスよね」

柳先輩の顔を見るのが怖くて、やや俯き気味に呟いた。
俺自身ですら、未だに本当なのか否かと現実を受けとめ切れていないのだから。

しかし次に苦笑いしながら口を開いた柳先輩からは予想外の言葉が飛び出した。

「いや…、お前は嘘をつかないだろう。信じよう、科学的ではないがな」

「え、いや…え?」

「どうした?」

いや、どうしたじゃないでしょう、何処から来るんすかその自信。

まさか信じて貰えるなんて思っていなかっただけに対応に困る。信じて貰えなかった場合でもそれは変わらないだろうけど。

「そんな簡単に信じちゃっていいんスか…?」

「お前が言ったのだろう、それとも嘘なのか?」

柳先輩の問いかけに慌てて首を横に振る。それは事実だ。
それを見て満足したのか、先輩は俺の頭をいい子いい子とでも言うかのように撫でた。

「なら信じるさ。…それが本当なら、色々と合点もいくしな」

「柳先輩…?」

俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら何処か寂しそうに笑う柳先輩を見上げれば、何でもないと綺麗に笑われ流されてしまう。

俺はまだ聞きたい事があったけど、口を開く前にそれは柳先輩の言葉によって遮られた。

「そろそろ昼休みも終わる、早く食べないと間に合わないぞ」

それを聞いて慌てて時計に目を移せば、それはもう既に昼休み終了10分前を指していて。

「あー!」

膝に乗っている数種類のパン達は食べられるのを今か今かと待ち構えているが、どう考えても残り10分で食べるには厳しい量だ。

「まだ大丈夫だ、頑張れ赤也」

そう涼しい顔でお茶を飲んでいる柳先輩の弁当箱はいつの間にか空で、俺は1人大急ぎでパンを詰め込む羽目になったのだった。





頑張った甲斐もあって、残されていたパンを八割方お腹に入れて授業を受ける事に成功した。
無理に詰め込んだせいでお腹は若干気持ち悪いがこの際無視だ。パンとの格闘中、パンを咽喉に詰めたおかげで柳先輩のお茶を貰えたのだからこれ位安いもんである。

ここまで思い返して俺はある事に気がついた。

先程は咽喉が苦しくてそれ所ではなかったが、考えてみればあれは間接キスなのでは無いだろうか。

あのガードの堅い潔癖症のある柳先輩が、自分のお茶を俺に…?

俺は女子かと突っ込まれそうな程にその事について顔を赤らめながらも、胸に突っ掛かった疑問に頭を悩ませながら授業を受けたのであった。

授業中、そんな状態だった俺が隣の席の友達に変質者を見るような目で見られたのは言うまでもない。