打ち明けた事実




午前中の授業が終わり昼休みを告げるチャイムの音が教室に響いた。

次いでがたがたと椅子を鳴らしながら立ち上がるクラスメイト達に続き席を立つ。
持ってきてはいるが、恐らく足りないであろうお弁当の他に購買で食べ物を買うためだ。

仲のいいクラスメイトの誘いを断って購買へと急ぐ。

「赤也」

廊下を小走りに進んでいた俺は、背中で声を受け止め振り返った。

「あ、柳先輩…」

声で予想は出来ていたが、視界に入った姿にどきりとする。
それは朝練の際に変な事を想像してしまっていたという後ろめたさから来たものだ。

「今から昼食か?」

そんな俺の内心など知らないだろう柳先輩は、俺の手に持たれた財布を見ながらそう訊ねてくる。

「そーっスよ!弁当だけじゃ足りないんで買いにいくんス」

無邪気を装いながらそう返せば、育ち盛りには良いことだと言って彼は笑った。

その笑顔に少し胸がちくりとしたがそれには気付かないフリをする。
これが俺に向けられているものじゃないだなんて思いたくなかった。

「そうだ赤也。赤也さえ良ければ今日は中庭で2人で食べないか?」

突然の申し出にハッと顔を上げる。

精市達には内緒だと、どこか楽しそうに言っているのを見ると、どうやら此方でもレギュラー陣は昼を共にしているらしい。恐らく場所は屋上だろう、簡単に予想出来た。なんたって自分の所も毎日屋上で昼を済ましていたのだから。

しかしこの申し出は珍しい。この人が自分から誘ってくるなんて。
もしかすると何かあるのかもしれないなんて考えていると無言になってしまった。

「嫌か?」

しゅんと落ち込んだような柳先輩の顔。

そんな顔しないで下さいよ先輩、凄い罪悪感感じるじゃないっスか…。

「そんなことないっス!俺購買行かなきゃなんで先に行っといて下さい!」

それを聞いた柳先輩は嬉しそうにわかったと告げた後、俺に背中を向けて歩きだした。

廊下を曲がりその姿が見えなくなったところで俺も購買に向かって走りだす。
その後購買でお気に入りのパンを買い、それと教室に置きっぱなしにしていたお弁当を持った俺は中庭へ急いだ。





中庭の中は日中とはいえ木陰が出来ていて涼しかった。頬を撫でて行く風が心地いいなと思う。
それでも昼休みを中庭で過ごす生徒は少なくて、目当ての人を見つけるのに時間はかからなかった。

「柳先輩!」

中庭に備え付けられているベンチに腰を下ろしカバーのついた本に目を落としていた彼は、直ぐに俺に気付いたようで顔を上げて手招きする。
誘われるように隣に腰を下ろせば持っていた食べ物の量に眉をひそめられた。恐らく量事態が問題なのではなくくどそうな物が多いのが原因だろう。

「…よく食べれるものだ」

「えーおいしいんスよ?一口食べてみるっスか?」

「遠慮しておこう」

即答されて思わずふき出してしまう。そこまで嫌なのだろうか。

「そう言えば赤也」

まだ止まらない笑いを必死に抑えていると、今までとは全く違う雰囲気の声が落とされる。

嫌な予感しかしなかった。

「昨日から違和感を感じる。まるでお前がお前でないような…いや、出会った当初に戻ったようなそんな違和感だ」

思わず息をのんだ。

この人は本当によく見ているものだと思う。

「何か隠しているだろう?」

力強いその言葉は問いかけではなく確信で、俺はもう隠せないと覚悟を決めた。

「…俺、多分違う世界の切原赤也なんスよ」

目を見開いた先輩と俺の間を、少し肌より冷たい風が通り抜けるのを感じた。