これが俺達のアイシカタ





赤也が入ったそこは普通の教室では無く美術室であったようで、一般よりも大きめの机が並べられていた。

物音をさせぬように暗闇の中を進んで、1つの机の下に隠れる。

―頼むから、入って来ないでくれ…

目をぎゅっと瞑ってそんな風に祈る。

しかしそんな思いを踏み躙って、非情にも扉がガラリと音を立てて開いた。

「幸村。おらんのか?」

やがてパチンという音が響き部屋に明かりが点る。

先の声は普段からよく聞いていた為誰か何て想像はついていたが、机の隙間から見えるその足を見て確信した。

……真田副部長まで…。

真田がぐるかどうかなんて、そんなの簡単に分かる事だ。

この場にいる時点で、彼は黒。

ゆっくり近付いてくる真田をじっと見つめながら息を殺す。と、足に冷たいものが当たった気がした。
隠れている机の奥。壁に見えているのは人の、足…?

それは普通ならあり得ない方向に曲がっている。そして、所々に浮かんでいる赤い染みはきっと血なのだろう。

そんなもののすぐ近くに隠れていたなんて。

「…っう」

薄く漏れた声を慌てて手で押さえたが、もう遅かった。

「――ああ、赤也」

どこか呆れたような真田の声を聞いた所で赤也の記憶は途切れる。

そんな赤也を見下ろす真田の顔は、とても満足そうだ。

「わざわざ、お前から来てくれるとはな」

幸村も蓮二も喜ぶ。

そう呟きながら、男は気を失った赤也の身体を持ち上げ美術室を後にした。

向かう場所は、先程赤也が逃げ出して来た家庭科室。

薄暗い廊下に1人分の足音だけが響いた。


* * *



翌日。
校舎のあちこちで見付かった大量の血痕は、大きなニュースとなったが、その持ち主の身体が出ることはなかった。

そしてこの日、血痕の持ち主であろう2人を含んだ8名の生徒が行方不明となり世間を騒がせる事となる。

あの夜起こった事件の真相を知るものは誰もいない―。

END


H24.02.03





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