[1/1 ]

冷たい手ですらいとおしい


この間、「好き」と言うのは思いの外簡単だということを知った。でも、態度で示すのは大変だ。手を握るってことをすることがこんなに難易度最高だとは思わなかった。

放課後、部活帰りは風が吹きすさんでいて寒い。一緒に帰るようになってからわかったけど、やっぱりというか柳さんは多弁な方ではない。俺がせっせと話題を振って、柳さんがそれに答える。この人は聞き上手だから、降った話題が思った以上に発展するのは嬉しい。

話しながらも、俺は右手に意識をやる。わざわざ手袋をしないのは隣にいる先輩の手を繋ぎたいからなんだけど、……どうしてか手を掴むこともできない。恥ずかしいのか、指先が掠めるように触れ合うことはできるのに。同じテニスをする手を掴むことができない。

指先は正直寒さで感覚がない。先輩はそんな俺をみて、手袋は?と聞いてきた。忘れた、と小さく呟き返すことしかできない。まさか、手を繋ぎたいからわざとつけていないとバラすことはできない。俺のプライドにかけても、だ。

いい加減、仕掛けないと思ったのは、交差点で信号に足を止められたときだった。隣の顔を見上げると、向こうも俺を見た。後ろには少しだけ明るい星空。細かい表情まではわからないけど、訝しげに俺をみている様子は感じ取れた。


「先輩、俺、あの」


息をはいて、意を決する。手袋をはいていない方の手を伸ばす。勇気を出せ、切原赤也!自分を鼓舞したときだった。


「ちょっと待て、赤也」


柳さんに制止された。妙な位置で手が止まる。柳さんはそのまま掴もうとしていたほうの手袋を脱いだ。そして、脱いだ手袋をしまうと、その手を俺に差し出す。

何となく、その意味合いがわかった俺は、柳さんの手を掴む。いままで手袋をしていたから、俺と違って暖かい。たぶん、俺の手は滑稽なぐらいに冷たいはずだ。


「俺の手、冷えてるッスよ」
「そうだな」
「……あんたの手は暖かいのに」
「……ちょうどいいじゃないか、暖かいのも冷たいのも」


手のひらを合わせるように組み直すと、暖かさは増す。強く握れば、柳さんも柔らかく握り返してくれた。

俺の顔はいますごく赤い。こんなに熱くなるとは思わなかった。柳さんはやっぱり平然としているのかなと思って視線を上げる。街灯の光に照らされて、暗さで解らなかった表情が見えた。俺と同じように、赤い。この人でも照れるんだ。

歩くスピードに添わせて、合わせた手を軽く揺らしてみれば、少しだけ楽しい。


「先輩、……明日も一緒に帰りましょうね」
「……そうだな」


あと少しで、帰り道は分かれる。約束することでもなかったけど、一緒に帰ることに予約をいれた。明日はもっと早く繋ごうと、俺は心に決める。一回できたんだから、次はもっと早くできるはずだ。


□□■■□□■■

しょこさまより相互記念で頂いてきました!

ほのぼの甘甘な赤柳美味しいですもぐもぐなんて可愛い!

手を繋ぐのもなかなか出来ない初々しい2人が愛しいです///

素敵な小説ありがとうございました!

H23.11.8


prev next


back