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君への独占欲は


最近物がよくなくなる。
予備のグリップ、傘、シャーペン、果ては手帳まで。なくす、という表現は間違っているのかもしれない。何故なら、何かがなくなった時には必ず荒らされた形跡が残っているからだ。

「それって絶対ヤバいっすよ!!盗られてんじゃないっすか!」

話を聞いていた赤也が声を荒げる。とは言え、今のところ自分に被害がある訳ではない。かばんから物がなくなっていても財布やカードは無事だし、あくまで日常品がなくなっているだけだ。

「何かあってからじゃ遅いっすよ!?早く警察行って下さい!」

「いや、まだ大丈夫だ。実際的な被害は被っていないしな。さ、もうすぐ日が落ちる。早く帰るぞ」

気付けば部室内に差しこむ夕日の色はずいぶん薄くなっていた。やがてすぐに淡い赤も姿を消し、夜の黒が満ちるのだろう。あまり夜遅くに出歩くのもよくないからと、俺は赤也に帰宅の準備を急がせた。



暗い夜道を1人分の足音が響いては消えていく。夏のじとりとした暑さはいつの間にか鳴りを潜め、秋独特の涼しげな夜に変わりつつあった。

こつ、こつ、こつ、ひた、こつ、ひた、こつ…

反響する足音に、別の足音が混ざる。こんな時間に他人と遭遇することが、何故か異様に怖かった。
足音はどこまでもついてくる。角を曲がっても、どれほど入り組んだ道を通っても、それは迷うことなく自分の背中を追いかけてくる。流石に気味が悪くなって、俺は一目散に駆け出した。

「待って…」

か細いソプラノの声が、背中に刺さった。


* * *

「…ということがあったんだが」

「蓮二…それはいわゆる"ストーカー"というものではないのか」

「先輩、やっぱり危ないですって…!しばらく道を変えた方がいいっすよー」

皆が話を聞いて矢継ぎ早に言葉を放つ。確かに赤也の言う通り、しばらくは道を変えた方がいいのかもしれない。

「とにかく気をつけろ。赤也の言う通り、何かあってからでは遅い」

「ああ…。できる限りは気をつけることにしよう」

それから間もなくして、今日の練習は始まった。ただ練習中にも、休んでいる時も、蛇のような視線が絶えず絡みついてくる。いらつきながら視線を巡らせたその先、フェンスの向こうに確かに昨日の少女が立っていた―…。

* * *

足早に家路を進む。あの少女が誰かは知らないが、自分にとって利益をもたらす存在でないのは確かだ。
暗い中を半ば駆け足で歩く。ぼんやりとした電灯の下、髪の長い少女がこちらを向いて立っていた。

「誰、だ…!一体何が目的で、」

震える声は少女が腕にかかえていたものを地面に落とした音にかき消された。暗いのでよくわからないが、テープ、小さなノート、汚れた傘…

息が詰まった。それらは紛れもなく自分が誰かに奪われたものだ。ただし、少女が持っていたものはもれなく赤に汚れている。

「ひとりで、いいの。私だけでいい」

「……?」

「私と、先輩だけ。それ以外は、いらないの」

何を言っているのか全く理解できない。ゆらりとあげた少女の顔は、鮮やかな赤が散りばめられていた。
無機質な光に照らされたそれは、人の血液だ。

――逃げない、と…

漠然と頭でそう認識すると同時に、体が勝手に少女とは逆方向へ駆け出した。振り返ることはできない。ただひたすらに、足だけを動かし続けた。

* * *

あれ以降、物がなくなるという現象はぴたりと止んだ。だがその代償に、今も絡みつくような視線は感じ続けている―…

END

あとがきを適当に書いてくれとか言われました^p^
無茶振りだめ、絶対

―――――――
相互記念に桜花さまから頂いてきました!
普段別ジャンルの彼女が素敵な文を書いてくれましたよ発狂ものですありがとうございまああああ^///^

藍璃
H23.09.22


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