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あなたの言う、幸せの夢


夜にやらなければいけないそうで、ぼんやりと時間を待っていた。
考えてみれば、この本は姉が持っていたものと同じだろう。
確か、片思いの男性に振り向いてもらうおまじないだとか言ったものをしていたっけ。
姉曰く、恋愛に恥じも何もなく、享受するなら何に縋ってもいいそうだ。
其れこそ、相手を不幸にしたり、みだりに人を傷つけずに、ではあるが。
そんな事を言って、俺の顔を覗き込み少し溜息をついた姉を思い出す。


あんたはいいね。


昔は、姉が何でも出来て羨ましかった。
何もかも自分より上だったのだ。
けれどそんな姉が、俺を羨ましいといった。
そして、負けないよ、と笑った。
気が強いのは、俺も姉も同じだ。
滅法似ている、と、思う。
顔ではなく、性格が。
そんな事を思っていると、時間がきて、俺はぼんやりと本を開く。
必要なものは用意したし、手順も覚えた。
唯この姿を姉に見られたら、半月は部屋に籠もってもいいと思う。
しかし、弦一郎の顔がみたくなるに違いない。
そして俺は、三日もせずに、部屋から出てくるに違いない。
弦一郎が迎えに来たならば、一日とて、籠もっていられない。
けれども、そんな自分は嫌いじゃない。
人間らしくなった自分は嫌いだ。
しかし、誰よりも、何よりも、弦一郎を愛している自分は、嫌いじゃない。
其処まで考えて、急に気恥ずかしくなって、溜息をついた。
幸せが溜息で逃げるそうだ。
溜まり過ぎてパンクしそうな幸せを逃がすために、溜息を出す事もあるのだと、最近知った。

誰かさんのせいだ。


おまじないをしてみたものの、何も変わらなかったので寝た。
ほら見ろ精市、なぁんにも、ないよ。




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